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2011年2月1日 |
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春闘の経済学 経営VS労働 |
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生産性基準原理の国際化 戦士にされた労働者
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富の源泉は労働である。だが、経営者は企業あっての労働者、経済成長の原動力は企業だと思考する。1億3000万の人口中、雇用者は7割、国民所得に占める雇用者は6割、その雇用主が企業なのだと―。
1月18日に発表された日本経済団体連合会(米倉弘昌会長)の『経営労働政策委員会報告』はこの不遜な哲学によって貫かれている。
これに対抗すべき労働界主流は、この哲学の流れを汲むから厄介だ。だから、賃金は最終的に労働の需要と供給側(労資)の力関係で決まるという法則に照らせば、勝負は『報告』が出た時点でついている。
要求は控え目に、交渉は日本の労使関係の安定のために、最後はどこで折り合いをつけるかのセレモニーとなって久しい春闘。一方の「たたかう春闘」は、この宿痾(しゅくあ)の構造打破を意識化したところから始まった。
経済戦争
今年の『報告』の主要テーマは、「労使一体となってグローバル競争に打ち勝つ」こと。それには巨大なグローバル化の波に乗り、新興市場の成長をビジネスチャンスと捉え、日本経済の成長基盤を世界規模で構築すること。合言葉は「国際競争に打ち勝とう」だ。まるで進軍ラッパだ。
めざすは明治、戦後の高度成長期に次ぐ第3の坂の上の雲=B敵は海外企業、戦場はグローバル市場。経済戦争に備えてとめどない賃金抑制。「勝つまでは欲しがりません」が今に蘇った。
こうした新事態に合わせて、「賃金は恒常的な付加価値の増加が見込まれる場合においてのみ許容される」というなじみの生産性基準原理が、装いを変えて国際競争場裡に適用された。
現在は国際的な連結経営の時代。どちらかといえば内向きだった生産性基準原理が、世界市場における自社という位相に置き換えられ、「賃金は国際的水準で決められるべき」となった。
たとえばITなど製造業をみると、時間当たり労働コストは日本を100とすると、韓国58、台湾31。つまり、総額人件費を韓国、台湾並みにしなければ競争力はイコールフッティング(同等)にならない、それには飢餓賃金水準にある非正規労働は絶対必要な存在、というわけだ。
賃金抑制原理は企業中心社会を変えない限り、手を変え品を変えて未来永劫作用し続ける。
付加価値
横並びでたたかった「春闘」が、「経営課題を労使で話し合う場」に変貌した。それでも春季労使交渉・協議として名残をとどめるのは、資本主義の労使関係は非和解的という宿命のゆえだ。あるいは一国の賃金水準(日本型所得政策)は、マクロ・ミクロの一国経済にとって枢要な問題だからだ。
経営者の総指令部経団連は企業活動の活性化を基軸としながらも、マクロ経済への言及を忘れてはいない。「賃金と雇用の安定」には「経済の持続的な成長」が不可欠とする「成長あっての賃金・雇用」である。
「持続的な成長」とは「恒常的な付加価値の増加」のこと。そのために、労働者を「労働生産性の向上」=「イノベーションの創出を促す企業活動」=「企業収益の増加」へと駆り立てる。
言い換えると、「生産・設備投資の増加→雇用の拡大→消費支出の増加」という論理構成だが、『報告』はこれを「自立的な循環メカニズム」と名づけ、労働側の「賃上げで内需拡大」論に対置している。
内需拡大
こうした経営側の成長神話論、企業中心主義、イノベーションによる日本生き残り論に労働側は有効な対抗論を持ちえていない。その結果が、聞く耳にも無残な「1%を目安とする賃金水準の復元要求」だ。
労働者の賃金論は、労働者が働き生き続けるために必要な労働力の再生産費論以外にない。「すべて国民は健康で文化的な最低限の生活を営む権利」(憲法第25条)を実現する賃金論だ。
この普遍的原則の追求から遠く離れて、そのうえに闘いを放棄した結果が、現在の賃下げ奴隷¥態だろう。なおのこと、マクロ要求である「賃上げで内需拡大」をスローガン倒れにしないことだ。
内需拡大へ、非正規を含めて人件費総額を維持・拡大するよう要求し、場合によってはストライキで闘いとるちょっとした決意があればよい。国民的な大義名分は労働側にあるのだから、何も案ずることはない。
このマクロ論争に関連して、今春闘に理論的一石を投じたのが藻谷浩介の『デフレの正体』(角川Oneテーマ21)だ。藻谷氏はデフレの超長期化に陥っている日本経済の病気は内需の縮小(老化現象)にあると診断し、派遣労働など雇用規制緩和、総額人件費の低い非正規社員の増加によってコスト削減を図るアメリカ型ビジネスモデルをきっぱりと否定する。
そして、生産年齢人口(15〜64歳)の減少に伴う就業者減少が内需不振の原因と見て、団塊世代の退職増で浮いた分を若者に回し、人件費総額を下げることなく、内需維持に努めよと説く。
氏は、賃上げで人件費総額を維持しなければ生産性は増えず、内需も増加しない、非正規労働者の人件費削減は内需を縮小するだけと主張する。
経団連の『報告』とは全く逆。そして、具体的処方箋として@高齢者富裕層から若者世代への所得移転、A団塊の世代、団塊ジュニアにつぐ人材ロケット3段目として女性就労の促進、外国観光客の増加の有効性を提言する。
なによりも生産性向上を自己目的化した経団連の指針は、日本経済の緩慢な自殺≠ヨの道を歩んでいると辛らつだ。たしかに藻谷氏の議論も、景気回復論の域を出ない。しかし、生産年齢人口の減少に着目したマクロ経済分析は斬新で説得力があり、労働側の理論武装に有効だ。
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