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2015.07.14

農協改革で農業が青色吐息か
安倍内閣と対決する農協運動
秋田県農業者ネットワーク 畠山 勝巳


 「郵政」の次は「農協」だといわれていた。それが現実になった。衆議院で「農協改革法案」が可決されたが、「農家所得の向上策」が何ら示されないまま、「デキレース」の様相を示している。この農協改革は単に農協の問題だけじゃなく、新自由主義に対する「アンチ」としての協同組合運動を潰すという戦略であり、その点を念頭に置きながら、農協のあり方も含めて検討してみたい。


 共助としての農協の発展


 協同組合運動の元祖はエンゲルスが「空想的社会主義者」として評価したロバートオーエン(イギリス)といわれているが、それは当時1日16時間労働などが通常であった産業革命期の劣悪な労働環境を改善しようと始めたものであった。
 日本では賀川豊彦などが戦前の貧しい農家を助けるため相互扶助として始められた。それが、戦後、農地解放でほとんどの農家が自作農となり、その共助のために農業協同組合法が1947年施行され全国くまなく設立されていった。それが、世界的にも稀な「総合農協」(注1)として発展し、今に至っては新自由主義者や多国籍資本からにらまれる存在となった。


 新自由主義とは水と油


 事業面では現在、農協系統は全農が5兆円強の売上高を誇り(平成26年度)、肥料では約80%、農薬では約40%のシェアをもつに至っている。また、保険分野では全共連が総資産50兆7千億と最大手の日本生命に匹敵する規模に迫っている。
 また、農林中金は全国の単位農協の貯金を集め、約57兆円の運用資産を持つ機関投資家として全世界に知られており、それらを束ねるのが、全中なのである。これが、農業協同組合法により「保護」されており、資本側にとってはヨダレがでるほど欲しい市場なのである。
 イデオロギー面では「相互扶助」の協同運動と「自己責任」の新自由主義では水と油であり、新自由主義をコンセプトとする安倍内閣と協同組合運動は敵対関係にあることは言うまでもない。逆に言えば、協同組合運動が新自由主義への抵抗母体となり得るということである。


 TPPは農業衰退必至


 TPPはアメリカの「TPA」の承認で新たな段階に入ったと言われているが、新自由主義の本領を発揮する政策であるため、それになじまない日本の農業は実施されれば衰退するしかない。全中が反対するのは当然であるし、農協の衰退に導くので退くわけにはいかない。TPPを成長戦略と考える安倍内閣には宿命的に対立せざるを得ない。現に系統農協は全体で反対運動を繰り広げているし、先の総選挙で「踏み絵」を踏んだ自民党議員は「実働部隊」を無視するわけにはいかない。
 そこで出てきたのが、とりあえず、全中をターゲットにした「農協改革法案」である。実働部隊の単協には影響ない、しかし、自らの力を誇示できる。単位農協に影響を与えては天に唾したことになる。今回の法案の中心である全中の監査機能や法的位置づけを変えたところで、単協には何ら影響はないからである。「准組合員問題」(注2)や「ゾーニング問題」(注3)は単協経営にもろに影響するのでそれには手をつけない、というかつけられなかった、というのが実情であろう。
 農協は前述したように、事業規模が大きい。本来は協同組合運動だが、そこらのスーパーや量販店と何ら違わない形態をとっている。要するに「運動」より「経営」に重きを置き、売り上げを伸ばすことに邁進してきた。そのため、支店の統合廃止、人員削減を進めてきた。それにより現場の農家組合員には不満が鬱積しているといわれている。それに、経営者の選出は公職選挙法が適用されないため、いまだに「現ナマ」が飛んでいるという話を聞く。
 つまり、協同組合でありながら非民主的な体制が治っていないし、直そうという気概も感じられない。本来はこのような実情にメスを入れなければならないのだが、それがタブー化されていて、政治家は手を付けない。このような現場の農家組合員本位の「改革」なら私達も歓迎するのだが、そんなことはしない。


 TPPの批准が試金石


 私達の実感では「岩盤」に穴が開いたかどうかはわからないが、農協総体の抵抗は心理的に弱まったといわれ、そういう意味では、安倍の狙いは成功している(私の地元の秋田では反対集会をすればこれまではデモ行進をしていたが、5月に行われた反対集会では何ら協議もなくデモ行進は行われなかった)。
 TPPは最終的には国会批准で決まるため、先の選挙では農協が推薦の条件とした「TPP反対」の踏み絵を踏んだ議員がどう反応するかにかかっている。
 今、秋田では農協系、共産党系、社民系そして、私達と「反TPPの映画上映運動」を企画している。こういうこと(共闘)はかつてはなかったことである。TPPの国会批准を何とか阻止することが戦略である。力は小さいが頑張りたい。(注1)現在日本のほとんどの農協は販売、購買、金融、共済等農家生活にかかわるすべての事業を営んでいる。これを「総合制」といい、世界的にも珍しく、また、協働運動として高く評価されている。(注2)農協の組合員は議決権があり、一定の農地を耕作している正組合員と議決権がなくただ利用するだけの准組合員とで構成されている。(注3)農協の事業は独占禁止法から除外されていて、単位農協ごとに事業区域が決められている。そのため、肥料や農薬の単価が農協ごとに違っていても競争原理が働かず市場原理に反するとして、その地域規制を外すように安倍のブレーンたちは提言している。


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