第3次安倍改造内閣が10月7日に発足した。内閣の看板に「1億総活躍社会」を掲げ、アベノミクス第2ステージ「新3本の矢」の推進を発表した。
経済と安保を巧妙に使い分ける安倍政治。まず、アベノミクス(第1ステージ)から踏み込み、一連の安保政策(国家安全保障会議設置、特定秘密保護法制定、武器輸出三原則撤廃、日米新ガイドライン合意、70年談話発表、集団的自衛権行使容認の閣議決定・戦争法制定)で民衆の反発を招くと、政策の重点を再びアベノミクス(第2ステージ)に戻した。
今後の政治カレンダーは、16年夏の参院選→17年4月の消費税10%への再増税→憲法改定を想定する。
同じアベノミクスだが、第9条を空文化した戦争法成立の前と後では質的に異なるとみなければならない。第1ステージは、デフレ脱却を目標に15年4月までの2年間にGDP2%(実質)と物価上昇目標2%という経済的目標を掲げ、金融・財政・成長戦略を総動員した。金融と財政は典型的な不況対策、その無制限ともいえる量的緩和・出動が際立った。
第2ステージの「新3本の矢」は、第1ステージの「果実」を活かして放たれる。「果実」とは「デフレ脱却は目前」の状態。しかし、GDP (実)は13年度1・8%プラス、14年度1・0%マイナス、15年度4〜6月0・3%(年率換算1・2%)マイナスだ。
とりわけ14年4月の消費税増税(5%→8%)が成長のブレーキとなり、再増税(→10%)の時期を先送りせざるを得なかった。物価上昇目標も0%台と予測される。マネタリーベースをこの12月までに350兆円を見積り、黒田日銀以前の2・6倍。その異次元の金融緩和が生んだマネーは成長戦略には回らず海外に流出、円安株高だけが「果実」となった。
成長戦略は法人税減税による設備投資と賃上げのいわば供給と需要の両サイドから実施された。しかしその結果、企業の内部留保の増大と雇用の非正規化をもたらし、「果実」の空洞化が進んだ。
第2ステージ「新3本の矢」は、@希望を生みだす強い経済(GDP600兆円)、A夢を育む子育て支援(出生率1・8)、B安心につながる社会保障(介護離職ゼロ)。「旧3本の矢」は、@のGDP600兆円達成目標に引き継がれたが、任期中の100兆円の上積みは内閣府でさえ、不可能と試算している。期待過剰ともいえるこの目標のカギを握る「強い経済」。資本主義は利潤追求の経済システムだ。利潤の蓄積と拡大にイノベーション(革新)投資は不可欠。減速する世界経済の中、新たな、確実な投資先として脚光を浴びているのが軍事産業。戦争法成立と一体の防衛装備庁発足を機に米国流の軍事ケインズ主義が台頭してきた。全産業に国境なき競争を持ち込むTPP合意は安保と一体、軍事産業の沃野ともなる。新3本の矢の標的は「50年後も人口1億人の維持」。2の矢「希望出生率1・8」と3の矢「介護職ゼロ」は1の矢「GDP600兆円」の実現手段で、何れも実現不可能な過大目標だ。女性は使い捨て労働力として活用し、労働不能な高齢者は切り捨て、その介護分野に低賃金労働力として活躍させる策。いまでさえ家事・育児・介護の過重負担の上に非正規劣悪賃金で貧困の淵にある女性達の生活環境の改善を抜きに、若い女性に産めよ、殖やせと鞭を振る安倍政権だ。4月の米議会で安倍首相は、「人口減少を反転させるために何でもやる積りです。女性の力をつけ、もっと活躍してもらう」と誓約した。出生率1・8の実現性以前に、その発想の非人間性が問題だ。菅官房長官が出産を「国家への貢献」と本音をもらしたが、出産=国家への人的資源の供給と見て、拒否する者を非国民視する発想に他ならない。「安倍の前に安倍はなく、安倍の後に安倍はない」と揶揄される第3次安倍改造内閣。自民党・官邸人事を含めて思考停止したお友達で固めた。目玉の1億活躍担当相の加藤信勝議員は「創生『戦後レジーム』からの脱却、改憲を目指す超党派議員連盟」の事務局長。そう、矛盾だらけのアベノミクスには希望も夢も安心もない。
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