アベノミクス成長戦略の柱と位置付けられたTPP(環太平洋連携協定)の承認案と関連法案を審議する衆院特別委員会が10月14日に始まったが、月内の強行突破を狙う安倍政権の傲慢さが世論の批判を浴びている。21世紀の自由貿易協定とは名ばかりで、協定文30章のうち貿易に関する章はわずか5つ、他は各国の法律や国民保護規制を多国籍企業の都合に合わせて変えていくルールだ。しかも、各国の国民生活と主権を侵害する協定案が秘密交渉でまとめられ協定文の日本語訳は全体の3分の1、それも誤訳だらけ。不信を解消しないで国会審議に付すこと自体が問題だ。
特別委員会が始まる前の国会審議で輸入米の不正取引が問題となった。日本は1993年の関税貿易一般協定(ガット)ウルグアイラウンドで、ミニマムアクセス(MA=最低輸入義務)米を受け入れた。
MA米は国産米の10分の1相当の77万トン。そのうち食用(弁当、外食など業務用)になるSBS(売買同時入札) 米が10万トン。これは輸入米によって国産米への影響を抑えるために、輸入米を国が輸入業者(商社)から買い入れ、その買い入れ価格に売買差益(関税に当たる)を上乗せして卸売業者に売る仕組み。売り買いの段階で国が業者に入札価格を競わせ、売買差益が多い順に落札業者が決まる。 この仕組み自体に不透明な部分があるが、その上に輸入業者が卸売業者に「調整金」というリベートを渡していたことが発覚した。国の管理の目を盗んで国産米より安い価格で流通させていたのだ。
SBS米(10万トン)を除く67万トンのMA米は加工・飼料用。必ず売れるわけではなく、結局、国の持ち出し(損失) となり、その額は累計3000億円以上になる。TPPは米豪両国にSBS米をさらに7・84トンの輸入枠の追加を合意した。野党は国会でこの点を捉え、「TPPによる米の輸入拡大で国産米への影響はないといってきた政府の試算は崩れた」と追及した。
しかし、政府は10月7日、商社・卸売業者130社を対象にした非公開のヒヤリング調査をもって幕引きを図った。
衆院特別委員会野党筆頭理事の篠原孝議員(民進)は、「こんな調査じゃ審議に入れない」と抗弁したが、多勢に無勢だった。
多国籍企業だけの利益が明らかなTPP、なのになぜ日本だけが急ぐのか。参加12カ国中、協定発効のカギを握るのがGDP1位の米国と2位の日本。その米国は大統領2候補が「反対」、もしくは「撤退」を表明している。協定発効の先行きが不透明な中、安倍首相は「再交渉はない」と明言。米大統領選の投票が行われる11月8日の前、臨時国会会期末(11月30日)を見据え、承認案、関連法案が自然成立する10月内の衆院可決を目指す。日本が先行して米議会に圧力をかけ、豪、ニュージーランド、メキシコなどに手続き完了を促す作戦だ。
そもそもなぜTPPなのか。安倍首相は世界のGDP4割の経済圏の取り込みと中国を意識した安全保障上の意義を挙げる。コメなど重要5品目が守られなければ「再協議する」「脱退する」といった国会決議は反故にし、暴走を続けている。
TPP批准に前のめりの安倍政権。JA全農改革、規模拡大と法人化を柱とする農業の国際競争力強化を政策大綱に掲げた。この道は中山間地・近郊・中小農業を切り捨て、日本農業をいっそう衰退させる。TPP批准反対が農業者の民意だ。
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