駆け込み需要
トランプ大統領による、米国民に対する最も直接的で非道な仕打ちは「オバマケアの廃止」にあるように思える。
オバマケアは14年1月に完全実施された。それまでは国民皆保険ではなく、公的な保険は65歳以上の人や障害者向けの「メディケア」と、低所得者向けの「メディケイド」があるのみだった。
多くの国民は、民間の医療保険に個人加入するか、勤務する企業等が提供する団体保険に入っていたが、2010年には4990万人(国民の6人に1人)が無保険者だった。病状が悪化するまで医療を受けない人も多く、結果として国の医療支出がふくらむという悪循環も起きていた。
ボストン在住の大西睦子医師によればオバマは「中低所得者層に保険料を補助する代わりに国民に医療保険加入を義務付けた。その結果、16年3月までに約2000万人が新たに保険に加入した。」
「トランプ氏の当選翌日、10万人を超える国民が保険加入を申し込んだ。さらに12月15日には67万人が殺到。16年11月1日から12月24日までに、計約1150万人が保険加入を申し込んだ。オバマケアが無くなる前に加入しておこうという駆け込み需要が生れている」というのだ(『週刊エコノミスト』1月24日号)。
けれどもオバマケア廃止のトランプの公約に熱狂した者もまた多いという。若い世代の中には、病気になる確率は低いのに負担が増すと感じ、罰金を払ってでも加入しない方を選んだ者もいるという。だが、それではいかなる皆保険制度も成り立つまい。マイケル・ムーア監督の映画『シッコ』の告発をぜひご覧あれ。
(影)
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