
|
後期高齢者医療制度4月実施の中止を求める
―高齢者の生命と尊厳を軽視する後期高齢者医療制度―
|
2008年2月15日
新社会党中央本部
|
|
小泉内閣時代の06年6月に成立した医療制度改革関連法により、《世代間の公平な負担を維持し、後期高齢者の生活実態等を踏まえて生命と安全を守り、高齢者の心身の特性にふさわしい医療を提供する》という名目で、今年4月1日から後期高齢者医療制度がスタートしようとしている。
この制度には、75歳以上の全高齢者の加入が強制され、都道府県毎に全市区町村が加入して設立された広域連合が、資格の管理、保険料の決定、医療の保険給付等の事務を行い、また、市区町村が、保険料の徴収や資格の取得・喪失に係わる窓口事務、被保険者の便益増進の取り組みや事務を担当することになっている。
このために、全国の地方自治体には「特別会計」が創設され、第一回市区町村議会定例会に一斉に予算案が提出されようとしている。
しかし、実施を目前控えた現在、この制度に対する反対や疑問の声は高まるばかりであり、制度の対象者である高齢者はもとより、全国の地方自治体や医療関係者などからも凍結や見直し、中止を求める動きが強く出されている。
各方面から指摘されている問題点は山ほどある。
第一の問題は、収入の少ない高齢者にとって保険料が過重な負担になることである。政府が試算した保険料の全国平均月額は6200円、年額にすると74400円にもなる。
また、制度の対象者1300万人のうち、これまでは扶養されていて保険料を支払う必要がなかった200万人の高齢者は、新たに保険料を支払わなければならなくなる。この人たちには半年間の支払い猶予措置その後の所得割凍結・均等割軽減という2年間の保険料軽減措置がなされるが、その対象となるのは全体の僅か15%に過ぎない。若干の猶予や減額措置が設けられるにしろ、いずれ保険料支払い義務は生じることになるし、また、収入がなくても生活保護以外の人は均等割の保険料は必ず支払わなければならない。
第二の問題は、保険料を滞納すると保険証が取り上げられることである。保険料は年金からの強制天引きが原則となるが、年金月額15000円以下の人は介護保険料と合わせて市区町村の窓口で納入する。納入が遅れれば保険証は資格証明書に取り替えられ、医療機関窓口でいったん医療費の全額を支払わなければならなくなる。当然、受診抑制を誘発することになり、低所得者を医療受診から排除することにつながる。これまでは75歳以上の人からは障害者や被爆者等と同じく保険証の取り上げることを禁じていたが、今後はこのような人道的な配慮もなくすということである。
第三の問題は、医療機関に支払われる後期高齢者の診療報酬を別建ての新体系にし、とりわけ外来受診の「慢性疾患」(糖尿病・高脂血症など)について実質的な主治医制と「包括・定額制」を導入することである。医療費抑制を狙うこの措置は、患者から医療機関選択の権利を奪うことや医療内容の劣悪化につながり、医療差別だという声が上がるのも当然である。
第四の問題は、保険料の基準とその2年毎の見直しである。各広域連合は医療給付費総額をベースにし、当初その10%は後期高齢者からの保険料を財源にする。しかし、後期高齢者の増加に応じた2年毎の負担割合引き上げが制度化され、給付費総額が増大することも確実であり、こうして、ほぼ自動的に保険料の引き上げが行われる仕組みになっている。これを押さえ込もうとすると、受診抑制につながる対応をせざるを得なくなる。
第五の問題は、保険料は「後期高齢者医療広域連合」が条例で決めるために、一般財源を持たない広域連合では、これまでのように自治体独自で減免措置を講じてきたようなことは出来なくなることである。したがって、広域連合内の医療体制の違いによって、医療格差が発生する恐れが出てくる。
第六の問題は、制度の構築や改定に当事者である高齢者はもとより住民の声が届きにくいことである。広域連合の議員数が制限されていて、半数以上の市や町からはもともと議員を出すことが出来ない。また、議員は「各市と町の長及び議会の議員のうちから選ばれる」ことになっており、直接選挙ではないことから、後期高齢者の意思や願いが広域連合に反映される仕組みにはなっていない。
これ以外にも問題点は枚挙にいとまがないが、以上の点だけを考えても後期高齢者医療制度は「生命と安全を守り、高齢者の心身の特性にふさわしい制度」という掛け声とは裏腹に、実際は「高齢者の生活実態を無視し、新たな犠牲を強いる制度」だと断ぜざるを得ない。
東京都の広域連合議会の「緊急要望書」が指摘しているように、「本来、後期高齢者の医療制度は、国の責任の下に、国民皆保険の一環として国民が安心して医療を受けることで健全な生活を保障する制度であり、その費用は国が責任を持って負担すべきもの」であるにも関わらず、今回の制度構築の最大の狙いは、高齢者の病気治療や健康の保全ではなく、医療財政負担の削減そのものである。そのために高齢者に対して幅広い負担を押し付けているのである。
まさに国による高齢者への負担転嫁であり、責任転嫁である。
発足時点での約1300万人の対象者は2025年には約2500万人に激増すると推定されているが、わが党はこのような膨大な国民の生命と尊厳をないがしろにするような制度には反対である。
政治的な駆け引きによる一時的な支払いの猶予や減額措置などの部分的な対応で制度の根本的な欠陥を取り除くことは出来ない。
わが党は、後期高齢者医療制度の4月実施を中止すること、さらに、抜本的な制度改革、すなわち「老人医療無料化の実現」を強く求めるものである。
|
 |
|