道州制は企業戦略の集大成
自治を圧殺する構造改革
新社会党自治体委員会
□
長南 博邦
□
当初の目論見では憲法改正が先行するはずだったが、昨年の参議院選挙で改憲を掲げた安倍内閣が惨敗。国民世論は生活の不安定化、すなわち貧困や格差問題、社会保障の切捨てに対して最大の不満をぶつける結果となって現われ、改憲路線は一頓挫。
それに取って代わるように浮上したのが道州制である。「究極の構造改革」としての道州制はグローバルな企業戦略の集大成でもある。
道州制は自由な企業活動、つまり最大の利益追求に対する障害を取り除こうとする資本の本能でもある。
国境を越えて活動する大企業にとっては、もはや重厚長大な政府は邪魔なものであり、国の役割はなるべく小さくして、経済等の権限は道州制に委譲させ、全国一律の制度ではなく、道州単位で政策を迅速に決定させようとする。
また、国の出先機関の地方支分局と都道府県庁の職員を道州職員に統合すれぱ、大幅な公務員削減が可能となり、一石二鳥である。
大幅な人員削減
それは当然のように、働く権利を追求する労働組合を排斥する。麻生総務大臣(当時)が第28次地方制度調査会で、「道州の長は道州職員の採用試験を行う。
その結果、国の職員が8〜10割採用され、県職員は多くても2割しか採用されない事態を想定して自治労対策を」とあいさつしていることを忘れてはならない。
ここでもかつての国鉄分割・民営化や今日進められようとしている社会保険庁解体と同じ手法がとられよう。
それを端的に表しているのが、06年7月の「道州制タウンミーティングイン大阪」で、跡田直澄慶応大学教授が「公務員もリストラを受け入れよ」「労働組合は敵」という発言だ。
省庁の予算と権限に対する執着から見ても、職員採用も含めて道州が建前とは逆に国の出先機関化しかねない。
「分権改革の集大成」「地方主権」と、経済団体や道州制ビジョン懇談会(以下、ビジョン懇)が息まいても、上からの改革では旗と中身が違ってくるのは、小泉構造改革で証明している。
北海道特区でも国土交通省の出先機関である北海道建設局は廃止されず、権限委譲項日は8つに過ぎないという。財源移譲についても財源を十分に確保できないばかりか、逆に現在国の抱えている借金をどうするのかという問題に直面しよう。
当然国は借金もそれぞれ分担してくださいといってくるはずだ。 また、住民自治、地方自治はその機能を発揮できるのだろうか。地方自治の破壊 現在でも政令市は規模が大きすぎ、住民自治が発揮できているとは思えない。
筆者がある政令市に視察に行って担当課長から説明を受けた時、はしなくもその課長が言ったのは、「本庁の職員でも市長に会えるのは限られた幹部だけであり、雲の上の人だ」ということである。
道州の長が直接選挙で選ばれても、いったん選挙が終わってしまえば「雲の上の人」となってしまうだろうし、そもそも住民がそのような選挙に関心を持つだろうか。 議員も同じであろう。選挙区を現在の衆議院小選挙区より狭くすれば道州議会は巨大になってしまう。逆に広くすれば、国会議員の存在は軽くなり、その役割の整合性が問われかねない。
いずれにしても住民の代表性は確保できるのだろうか。もちろん、道州議員は国会に議席を持つ政党所属に限られ、小数の声は実ることはほぼないと見てよい。
自治や地方主権という中で最低限クリアしなければならないこれらの課題も、ビジョン懇によれば「制度設計を適切に行うことで乗り越えることができる」と言い切る。
経団連は表に掲げた工程表で今後の道州制移行をにらんでいる。国も今後の道州制移行をにらんで、現在中休み状態にある自治体合併を、人ロ10万人を目標に加速させるであろう。小規模自治体は正念場を迎える。(おさなみ・ひろくに)
道州制導入までのロードマップ (経団連第2次提言から)
黒字は経団連構想
道州制導入
地方分権改革等
2008年
道州制ビジョン懇談会が中間報告を提出
地方分権推進委員会、第1次勧告(6月)
2009年
政府が「道州制ビジョン」を策定
「道州制推進国民会議」(仮称)の設置
国の資産と負債の縮減改革策定・実施
地方交付税・国庫補助負担率改革
電子行政の推進
公務員制度改革の実施
地方制度調査会の答申(基礎自治体の強化等)
地方分権改革推進計画閣議決定
新分権改革一括法案提出
─国と地方の役割分担の徹底した見直し
(地方支分部局の業務の廃止、縮小)
─地方税財政制度の整備
─行政体制の整備及び確立方策 等
2010年
「道州制推進基本法」(仮称)の設定
都道府県から市町村への権限委譲、基礎自治体の強化
地方支分部局の整理統合、人員削減
2011年
道州制導入関連一括法の制定
─国、道州、基礎自治体の役割の再規制
─税財政関連法の抜本改革
─行政組織および議会・執行体制の改革
区割り決定
2015年〜
道州制導入
地方支分部局の人員、事務事業の道州への移管
地方支分部局の廃止
中央省庁の解体・再編