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田母神前空幕長の論文について
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2008年11月4日
新社会党中央本部 |
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10月31日に田母神俊雄前航空自衛隊空幕長が民間ホテルチェーングループ・アパの「真の近現代史」に応募した懸賞論文(2008年5月より募集、審査委員長・渡辺昇一。優秀賞300万円・アパホテル巡り招待券)が発覚した。
論文は、個々の部分に重大な問題を含んでいるが、論文自体の全体を貫く意図に驚愕する。彼は過去の日本のアジア侵略を「正当化」し、むしろアジア各国の生活の向上に役立ったと賛美し、日本は「日中戦争の被害者」とまで述べた上に、「我が国が侵略国家だったのは濡れ衣に等しい」と述べる。
さらに東京裁判などによって「マインドコントロール」され、現在の自衛隊が「集団的自衛権」「武器使用」「領域警備」が禁止または制限されていることを嘆き、「輝かしい日本を取り戻す」と同時に、ごく普通の軍隊としての自衛隊を熱望している。
自衛隊を軍隊にし戦力保持と交戦権を容認する立場があからさまである。同氏は自衛隊イラク派兵を違憲と断罪した名古屋高裁判決をも「そんなの関係ねえ」とも述べている人物である。
この「田母神論文」の問題点は明らかである。
第一に、シビリアンコントロールを否定したもので自衛隊法違反である。自衛隊法第2章第7条は「内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊の最高指揮監督権を有する」と規定している。自衛隊の最高指揮権は内閣総理大臣であり、これを完全に逸脱している。
第二に、政府見解「村山談話」を否定している。日本の過去の歴史認識については「村山談話」が閣議決定され、公式な日本政府の見解となっている。村山談話は次のように述べる。「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り(中略)植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大な損害と苦痛を与えました。」と過去の日中戦争は太平洋戦争を侵略戦争として大きな反省に立っている。この政府見解を否定したのが「田母神論文」である。
第三に、憲法9条を否定している。田母神論文はとりわけ憲法9条を真っ向から否定する立場に立っている。そもそも憲法違反の自衛隊を解釈改憲で積み重ねてきた歴代保守政権の枠組みをも飛び越えて、今ある自衛隊の「制限・制約」を完全に取り払い、「ごく普通の軍隊」を望んでいる。憲法の不戦・非武装を完全に無視している。
今回の問題は自衛隊組織のありようについての検証を促している。自衛隊幹部の超法規的言動はこれまでも1965年に発覚した「三ツ矢作戦計画」や、1978年の「超法規出動可能」とする統合幕僚長議長来栖発言など後を断つ気配がない。
また、汚職などの不祥事や隊員の「自殺」が相次ぎ発生している。組織のトップの暴論が平然と発信されている背景こそ問題にせざるを得ない。最近も保守政治家による「核武装論」「集団的自衛権擁護」「海賊対策自衛隊の海上警備派兵」など、憲法無視の個別発言はそれこそ枚挙にいとまがない。
さらに、ミサイル防衛計画や宇宙基本法制定による宇宙軍拡競争への参入、自衛隊の省昇格など自衛隊のシビリアンコントロールからの逸脱を助長する政治こそが問題である。田母神氏の「退職」で問題を水に流してはならない。
こうした問題が起きること自体、護憲運動の弱さと受け止め、憲法を守り活かす運動の強化と政治勢力の協力・共同体制の構築に全力をあげよう。
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