
松枝 はじめまして。新社会党も落合さんや大江健三郎さん、鎌田慧さんらが呼びかけた脱原発1000万署名を全国で取り組んでいます。
落合 各地には、これから署名やアクションに立ち上がるという人たちが大勢おられます。ニューカマーが解放感を覚えるような、またチェルノブイリ以降、先頭を走っていた人たちが疲れないような活動にしないといけませんね。
松枝 今回の事故で終るわけではありません。
落合 いつ収束するかも分かっていない。フィンランドのオンカロを描いたあの映画ではありませんが、何万年後まで続くかもしれない。次々と新しい問題が起きるので、報道も希薄になり、揺り戻しがあるかもしれませんが、わが子とわが孫のことから始まって、いま子どもである人、これから生まれてくる子どもたちを考えれば諦めてはいられないはずです。
松枝 僕らの側に呼びかけるていねいさが必要ですね。
落合 いろんなことを反省したり、見つめ直したり、再構築が必要ですね。とてつもない事故の結果であり、基本は生き方の問題だと思います。それを問い返し、深めるチャンスにしなければ。
松枝 署名をしていて反応が悪いのはネクタイしたサラリーマンです。
落合 9月19日の6万人集会は初めて参加した方、あるいは一人参加、孫たちを連れた老夫婦と。個人が個人であることが問い直されていると実感させられました。
松枝 僕にとっても発見と感動の集会でした。
落合 あとはどこまで持続するか。内側のエネルギーが問われています。持続可能な、人間の自然エネルギーですね。
松枝 言われるように未来の子どものことを考えて、決意も具体的でありたいですね。
落合 私どもの子どもの本の専門店「クレヨンハウス」では、原発とエネルギーを考える朝の教室を5月からやっています。自分の心を決める前に勉強をしなきゃいけないと、チェルノブイリの事故の時には高木仁三郎さんたちに来ていただいた。今回、それをブックレットにまとめています。
松枝 昨年、佐賀県唐津市で交流会をやって、ついでに実物大の玄海原発炉を見てきました。
落合 やらせメールをはじめとして、納得できませんね。
松枝 開沼博さんの『フクシマ論』を読み、いろんな意見を聞いて、「原子力ムラ」は人間論を突き出していると思いました。地元も開発と「希望」が結びつき、「国策」推進が「誇り」に発展する「貧しさ」がある。
落合 戦後の民主主義、資本主義は1割の幸せのために9割が苦しんでいる。その象徴的な形が原発というシステムでしょう。何の保障もなく10年、20年、30年後に発症した場合、証明するところすら難しい人たちの犠牲のシステムそのものを根本的に問い返し、変えていくことです。日本全国に、この経済がらみの犠牲のシステム、何世代先の子どもたちまで巻き込むかもしれないという犠牲のシステムを変えていかない限り、本当の希望は見えません。
松枝 沖縄も原発と根っこは同じですね。
落合 沖縄へも何度となく行っていますが、政治もあらゆるアンチの運動も男性主導だということ。その結果、女性の声が入りにくい。少女暴行事件は一つの象徴です。ジェンダーギャップができてしまった犠牲のシステムとそれは相似形だという気がします。
松枝 前沖縄防衛局長の「犯す」発言はひどい。
落合 性暴力の被害者がいるのに、それを踏まえて言っているのか、納得できません。政治家の比喩の中に人権意識が欠落していると感じるものがありますね、ひどいです。
松枝 基礎的な教養を欠いたまま、男社会の旨味を享受している。
落合 女性も少しずつ階段を上り始めるとどちらに行くか分かれ道がある。女性政治家でも好戦的な方がいますから。
松枝 土井たか子さんが社会党の委員長の時は、大勢の女性が政治に進出しました。
落合 「マドンナ旋風」といわれたあの頃ですね。
松枝 当時、介護問題が社会問題になり、介護保険が生まれました。今は逆戻りして家族の責任になっています。
落合 お年寄りが自分が暮らしたところで最後の時を迎えたいという気持ちはわかりますが、環境的な充分なサポートもないまま独り家族のお年寄りが家に戻っても大変です。「老々介護」って嫌な言葉ですが、私も高齢者に入っているからどうしようと思います。
松枝 介護でも男性は女性に頼りきりです。
落合 福島や各地でも活動する女性が目立ちますね。命に近いところにいることの一つの現れです。男社会がつくってきた構造の後始末ができずに、核の後始末もできないでしょう。
松枝 大阪のダブル選挙をどう思いますか。マスコミは原発の決着が着いていないのに橋下旋風をつくりました。神戸新聞の出口アンケートでも、生活が主で都構想は4番目の関心度でした。
落合 小泉郵政選挙から「劇場型」の時代が始まりました。政治に期待した結果の「劇場型」ではなく、失望した結果としてより刺激的で、より面白いものに束の間の劇場を仮設し、楽しんじゃおうという市民の悲しい反応ではないか……。そう書きましたが、今回も似ているかも。イメージ先行で流れてしまった。
松枝 東京では石原都政が続いています。
落合 共通しているものがありますね。社会、政治全体を閉塞感が覆い、その劇場に足を運ぶ一瞬のエンターテインメントですよ。そこで自分は片隅に座っているだけなのに、参加しているという錯覚がつくられてしまう。その錯覚が恐い。
松枝 橋下流が全国化し、中央化する。毎日新聞の調査によると、若者の7割が橋下に投票しました。
落合 パワフルで刺激的な人間が変えてくれると考えてしまう、そこですね。
松枝 結局、生活の中で考えていくしかありません。長い目で見れば、橋下の正体は生活の中で明らかになる、その意味で自信をもっています。
落合 みんなで新しいやり方を考えないと。ネットワークをニットワークすると考えます。一つのテーマで編んでほどいて、ほどいて編んで……と。原発はもとより沖縄やその他もろもろと重なっていく。ただ、この思いを柔らかく受け止める既成の政党がないので焦りますね。
松枝 僕らもなかなか頭を切り替えられない。
落合 地元や国民の思いと重ならない。前例があるわけではないのに先例主義になっている。
松枝 自分たちの自己主張を強めることから始めようと言っています。みんなで一歩出るのがシンドクなっている。
落合 一人ひとりの1ミリの方が10人の1メートルよりはるかに大きな力になりうるのに、外から見るとすべての政党がじれったい。
松枝 漱石の「私の個人主義」を何回も読んでいますが、日本の「国民」意識は明治から変わっていない。
落合 ある意味ですべてが官製で変わっていないかもしれません。去年から自然保護運動の父とも言われるソローを読み返しています。借り物ではない自分の思想を身につけること。それを持って表に出て行き、個と個がニットワークする。そういう流動的なワークができないか、と。
松枝 もう一度、一人ひとりが前に出る作風をつくることですね。
落合 相手の土俵の片隅でアンチを叫んでいてもしようがない。古く響くかもしれませんが、やはり志や理想を持って、この時代と対峙し、越えて行くしかない。悲しいかな日本の政治は、少数派は多数派についていってしまう。一人の人間としてそれだけではないだろうと思うのに。
松枝 いろいろ言われながら、国政からは逃げないでやってきました。
落合 私は、ささやかながら権力に対峙する側に生きてきましたが、今回は、「権力」が欲しいと思いました。福島の子どもたちを考えると。学校ごと、家族ごと、この地区はここに受け入れるとか、結局国が動かないとできないことが多すぎる。
松枝 僕らが「逃げろ」と呼びかけても、受け入れる力があるかと悩みました。
落合 それでも子どもたちを内部被曝させる罪を考えて、私たちは声をあげたいですね。子どもの顔を思い出すと堪えられない。
松枝 当事者の苦しみに寄り添うこと。
落合 家族同士でも悲しいぶつかり合いがあり、町内でも学校でも被害を受けた人が、心ならずも対立してしまう構図ができている。痛みをそれぞれが抱えながら、なぜ対立しなければならないかと。
松枝 そこを何とか乗り越えたい。
落合 柔らかな哲学というか、限りある命の中で、生きる上で何が大事かを考えること、それが原動力になるとは思うのですが。
松枝 政党はパルタイといって昔は部分を大事にし、そこに討論、民主主義があった。
落合 二大政党制では二つの政党におさまりきらない民意は、どこへいけばいいのか。小さい声が消されてしまう。政治家の方々は俗受けを意識せず、誠実に自分の言葉で話していただきたい。
松枝 僕は8人兄弟の中で育ちました。
落合 高度成長からバブルがはじける真ん中にいた方たちですね。そこでかすかに感じ、表に出せなかった理不尽さが凝縮した形が原発だったと心から頷けた時、自分から動き出していく方がいる。机の上でのレトリックとして語るのではなく、自分の弱さを知った上での強さですから意味のあるものになるでしょう。
松枝 やはり、若い人に期待したいですね。彼らが何かを見つけ出していく、それを支えるのは僕らの責任です。
落合 私は35年間、「クレヨンハウス」を東京と大阪でやっていて、マスコミにベスト10を教えてくれと言われますが、出しません。出すとそれしか読まなくなる傾向があるからです。いらしていただいて座り読みしてください、その中から1冊見つけてくださいと。必要なのは、リーダーではなくガイド役です。ガイドはリーダーよりはるかに難しい。若い人に向けて、柔らかなガイド役ができる大人が増えることも大事ですね。
松枝 最近は大人も本を読まなくなりました。
落合 今は3代目のお客さんです。きっかけは何でもいい、本を触っても匂いをかいでもいい。入り口は広く、です。また、本を読む子はいい子というのも強迫観念ではないかと思うのです。
松枝 なるほど。
落合 若い子は大人が面白がって読んでいると横目で見ている。いろんな楽しみを知っていて、その一つが本の面白さであることが豊かさだと思います。
松枝 若い人たちの精神的成長に期待し、せめて1000万署名はやり遂げたい。
落合 焦ります。電話、ファクス、メールを送って、一つ一つがニットワークになって、全体に空気が通って、その真ん中に福島の方々がいるように……。できることは全てやる、結果をカウントせず、考えず、どうせ無理だろうという考えを持たずに続けたいですね。
松枝 阪神・淡路のときもそうでしたが、シンドさを乗り越えること。
落合 シンドイところに強い意思が求められ、シンドクないところにカネとつながりができる。この日本の犠牲のシステムどう解体するか。
松枝 やるしかありません。今日は、ありがとうございました。
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