原子力平和利用の推進機関である国際原子力機関(IAEA)の調査団が1月23日、福島第一原発事故を機に導入された原発のストレステスト(耐性試験)の審査方法が適切かどうかをチェック・助言するために31日までの日程で来日し、原子力安全・保安院から聴き取り調査を行い、大飯原発を視察した。これに先立ち、保安院は1月18日の第7回「ストレステスト意見聴取会」(委員11名)で、関西電力が提出していた大飯3、4号機の報告書は「妥当で安全性が確認できた」とする「審査書案」を、市民が抗議し委員2名が欠席するなか会場を移してまとめた。昨年12月に「事故収束宣言」を行い、原発を海外輸出するための原子力協定承認案を国会で強行可決した政府は、原発再稼働をにらんで「脱原発」を願う国民に挑戦状をつきつけた。
ストレステストは昨年7月7日の参院予算委員会で「全原発を対象に実施する」と表明した菅前首相の置き土産。これに枝野・海江田・細野3閣僚が、「一次評価を停止中原発の運転再開の条件とする」と釘をさした。
ストレステストの目的は、「福島事故を踏まえ、地震・津波などの想定を超える事象に対して、プラントがどの程度の余裕(安全裕度)があるかを評価し、防護手段の多重性と脆弱箇所を確認する」ことにある。事故を予測するものでも、大事故が起きないことを証明するものでもないのだ。
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福島の子どもたちを放射能から守れと訴える経産省前テント=2011年10月29日 |
日本が下敷きにした欧州連合(EU) のストレステストにも安全性を判断する基準はない。ストレステストは「(原発の)包括的かつ透明性のあるリスク評価」を行うものと定義され、その目的は「過酷事故による放射能の大量放出を緩和すること」だけなのだ。
来日した元ブルガリア原子力安全庁のゲオルギ・カスチエフ氏は、EUストレステストには「独立の専門家やNGOが報告書作成から排除され、報告書も原資料も公開せず、公開討論もなく、透明性・公開性に欠ける。ストレステストで原発が安全になるわけではない」と語っている。
原発は30カ国に435基、平均稼働年数は26年。これまでに138基が閉鎖され、発電量に占める原子力の割合は17%から12%に低下。EUではドイツ、イタリア、スイス、ベルギーが廃炉・計画中止・閉鎖を決め、現在134基。1989年のピーク177基から43基減った。
今回行われている日本のストレステストは、運転再開の条件を確認するための儀式。それも第一次評価で事実上終了し、全原発対象の総合的な第二次評価は付け足しに過ぎない。政府・保安院の計画では、今後、IAEAの助言―電力事業者の報告書審査―原子力安全委員会のチェック―地元自治体の合意―首相・関係閣僚の政治判断―再稼働の運びだ。
今回、大飯3、4号機ストレステストの「妥当」判断は、再稼働スケジュールの突破口となる。関西電力は11基の原発を持ち、原子力依存度は高く、電力不足を理由に報告書提出からわずか3カ月のスピード審査だった。福島第一、第二10基を除く44基のうち18日までに提出された報告書は14基に過ぎず、報告を督励する意味もあった。
最大の難関は地元自治体の合意を取り付けること。そこに14基の原発と「もんじゅ」を抱え、知事が「(ストレステストは)再稼働の判断材料には不十分」とする福井県を落とす狙いもあった。政府はその時期を2月上旬におき、野田首相自ら「説明に出向く」とサインを送った。
18日の意見聴取会で市民の抗議に呼応して後藤正志・芝浦工業大学非常勤講師とともに欠席した井野博満・東京大学名誉教授は、昨年11月14日の第一回意見聴取会に9項目の「意見書」を提出、18日も「(関電の報告書は)福島第一原発事故の教訓を反映していない」として撤回を求めた。
井野委員の意見は、ストレステストの評価の枠組みが事業者―保安院―安全委員会と従来と同じで原発に批判的な市民や地元住民が加わっていないこと、テストの審査・判断基準が不明確なこと、現時点の設備・器機の調査・診断がないことなどを質している。「ストレステストは机上の作業で、シナリオ次第で恣意的な結論を導くことができる」と指摘する。
意見聴取会の委員の中には電力業界から研究費や寄付金を受けた委員が複数いる。彼ら推進派は「この場は技術問題を粛々と論じればよい。それをどう判断するかは政治の問題」として井野氏らの意見を封じてきた。といって、野田首相ら政治家には技術問題の判断はできない。政治も技術も「再稼働ありき」で足並みを揃えた。この理不尽に黙っていられない。
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