第180回通常国会が開会した1月24日、野田首相は初の施政方針演説を行い、政権の命運を消費税増税にかけることをあらためて表明した。それには最大野党自民党の協力が不可欠とあって福田康夫、麻生太郎両元首相の当時の演説を引用したが、解散・総選挙による政権復帰を狙う谷垣自民党は協力を拒否。二大政党が角を突き合わせる中、大阪維新の会、みんなの党、石原新党などが会期末6月21日の先を見据えた政局優先の消費税増税国会が始まった。
野田政権はやはり増税→財政再建を最優先する財務省の傀儡政権だった。消費税増税を「決められない政治からの脱却」を「日本再生元年」とする施政方針演説だが、向かい合うのは野党。首相は「この国の未来を慮る大きな政治」「政局ではなく大局を見据えよう」と訴えた。
「大きな政治」とともに目立つのが「決断する政治」だ。それは「国民の歓心を買う政治ではなく、選挙が厳しくても辛いテーマをしっかり訴える」(1月13日、内閣改造後の記者会見)政治である。財務省の人柱となって、将来にわたる消費税増税の道筋をつけることが「政治家としての集大成」と考える首相。国民を踏み石に、自己栄達本位の演説は前代未聞だ。
演説は「復旧・復興、原発事故との戦い、日本経済の再生」を優先課題とし、そのあとに「政治・行政改革・社会保障・税の一体改革」をおく。3つの優先課題は、約2.5兆円の第4次補正予算案と復興経費を含め約96.7兆円の12年度予算案及び関連法案の成立がセット。だが本命はそのあとの課題だ。
政治・行政改革は国家公務員給与の8%削減、独立行政法人の4割削減、特別会計の半減、国の出先機関の原則廃止、衆院議員の定数削減などの根絶が柱。まず「隗より始め」て、その上で国民に痛みを求める。
一体改革の焦点は、消費税を「2014年4月より8%、15年10月より10%」に引き上げること。しかも「引き上げ後の消費税収は、現行分の地方消費税を除く全額を社会保障の費用に充て、全て国民の皆様に還元します。官の肥大化には決して使いません」と明言した。この「福祉目的税化」を法的にどう明確にするのか、社会保障特別会計を設けるのかは不明だ。しかし、財務省にとって「福祉目的税化」は消費税を国税に固定化できる。また、将来の社会保障費の増大を青天井の消費税増税で賄えるうってつけの仕組み。「社会保障と税の一体改革」の狙いはここにある。
ときに財務省は、2012年度末の国の借金が1085兆円になると見込み、内閣府は2020年度にプライマリーバランスを達成するには消費税を16%に引き上げる必要があると試算した。民主党の新年金構想を実現するにも、10%にさらに追加増税が必要で、これがまた政局の火種となっている。
消費税増税内閣にとっては付け足しになってしまったが、見過ごせないのは「アジア太平洋の世紀を拓く外交・安全保障政策」である。演説はアジア太平洋地域を「世界の成長センター」として同地域の需要・購買力を取り込むことが「日本の豊かさと活力、国益実現の最大の戦略目標」と述べ、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現へ、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加へ意欲を示した。と同時に、アジア太平洋地域を「自由と民主主義、法の支配」する共通の価値圏とするために、日米同盟を基軸に対応すると自民党時代の外交政策を引き継いだ。沖縄の米軍普天間基地の移設問題は引き続きその中心課題となっている。
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