自民圧勝で年が明けました。もし自民党の公約通り政策運営されると、日本は軍事大国・貧困大国、民主主義を踏みにじりアジアの孤児となります。憲法も改悪の手続きが進められて瀬戸際に追い詰められるでしょう。それでもアキラメない―。反原発運動から今後の展望を語り合っていただきました。
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澤井正子さん
(原子力資料情報室スタッフ) |
私は大学を卒業後、東京地評で原水禁運動を通して原子力資料室の高木仁三郎さんに出会いました。1992年から原子力資料情報室に移り、反原発運動に携わっています。
チェルノブイリ事故後、89年にドイツの再処理工場を訪ね、核のゴミ問題の重大さを教えられました。ドイツは福島事故で突然、脱原発に転換したわけではなく、1970年代からの長年の運動の蓄積があり、再処理工場や高速増殖炉の計画を止めてきた結果、脱原発を実現したのです。
総選挙の結果、原発をめぐる状況はもっとひどくなるかもしれません。気を引き締めてできることをやっていきます。
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松枝佳宏
(新社会党委員長) |
総選挙の結果、歴史を逆行させる反動の嵐が吹き荒れるでしょう。歴史的な政権交代は何だったのか。小泉構造改革は派遣村を生み、格差・貧困社会を浮き彫りにし、その反発が自公政権を倒しました。
私たちは、自ら闘いとった政権ではない、期待するのはいいが身柄を預けるなと訴えました。そして原発震災は、かけがえのない命は自ら守るという、新しい民主主義のうねりを産み落としました。
反動はこのうねりを潰しにかかります。誰も責任をとらず、何も解決しない政治が続きます。ジグザクだが悩み考え、行動する人々の輪はさらに大きな流れを生むでしょう。
松枝 小出裕章さんから「脱原発は戦争です」と言われて、そこまで考えるのかと衝撃を受けました。
澤井 3・11直後は、政府やマスコミの「大本営発表」宣伝に対抗して、インターネットテレビで後藤政志さんたちと事故情報の発信をしたり、無我夢中の1年でした。
松枝 東と西では温度差がありますね。
澤井 福島では荷物を1個、2個持つだけで家を出たまま、未だに帰れない、もう帰れないかもしれない、そういう地域ができてしまったことが知られていない、そういうギャップがありますね。
松枝 最近は汚染水が漏れたという程度の報道しかなく、原発はもう終わってしまったかのようです。
澤井 私たちが日々吸っている空気は原子炉とつながり、状況は事故当時と変わっていません。関東地方でも、3・11以前の放射線量に戻っていません。
松枝 みんな不安に陥り、情報を共有できていない。
澤井 福島には避難したいのに、できない人が大勢います。仮設住宅に移り、食べられるけれど気持ちはボロボロ。過去と現在の生活、そして生きる望み、未来までも奪われたのです。これが原発事故です。
松枝 敦賀原発の活断層が確認されて、廃炉の可能性が出てきました。あれは人身御供じゃないですか。
澤井 日本原電は電気を関西電力に売っているだけの会社ですから、潰れても困らない。関電の大飯原発は同じように破砕帯があるのに結論を出さない。非常に政治的です。
松枝 規制委員会についてどう思います。
澤井 どんな原子炉も事故の可能性があります。チェルノブイリでは津波に襲われたのでもないのに炉が爆発した。スリーマイルで地震があったわけでもないのにメルトダウンした。原発は活断層がなければいいというものではありません。国は、福島第一原発事故で、結局何も反省していません。
松枝 再稼動ありきですね。
澤井 飛行機事故は社会的危険性の許容範囲です。原発事故は地球規模の放射能汚染、取り返しがつかない事態を引き起こします。
松枝 仮設住宅は阪神・淡路大震災でも体験しました。福島と違うのは放射能です。
澤井 そうです。福島では非常に強い放射能のために、帰りたくても帰れない。農業もできない、人が住めない土地になってしまった。お金では解決できないのです。「原発は危険」それでも必要?
松枝 阪神・淡路と福島を通して自治体力、地域力、企業戦士となった男たちのことを考えさせられました。
澤井 何を重要と考えて、どう変えていくのかがポイントです。女性はまず「いのち」。原発は危険だということは分かった。だから止めよういう意見と、安全性を確保しながら動かせばいいという見解に、分かれます。
松枝 うん、うん。
澤井 原発の安全問題は片がつきました。核兵器もいらないと世界中の人が考えている。でも現にある。必要悪だ。原発も支えてきた企業や社会システムに深く関わってきた男たちと、家事や育児という不払い労働に追われて資本の論理から比較的遠い女たちの発想の違いがあります。
松枝 なるほど。松枝原子力ムラとはよく言いました。
澤井 外務省や環境省はNGOを招いて意見交換します。NGOと政府が協力するのはいまや世界の常識です。日本の「原子力ムラ」にとって、NGOはただのうるさい相手、極端に言うと人間扱いされてこなかった。
松枝 なぜなの。
澤井 疑問や反対を唱えるものは排除、無視。一応話を聞くなんてこともありえなかった。
松枝 高木さんに対しても?
澤井 ええ、高木さんだって最初は相手にされなかったと思います。
松枝 結局、放射能の問題ですね。
澤井 現在福島のサイトでは、非常に高い放射能汚染で建屋に近づけないから、東電はポンプで水を注入しているだけ。これを何十年もやることになる。人間のコントロールを失ったままの原子炉があるのに何が「収束」ですか。松枝そういえばフクシマを契機に内部被ばく問題が漸く公の問題になりました。ヒロシマやナガサキで認めさせることができなかった。
澤井 そうですね。運動の力不足でした。昨年10月末に20キロ圏内の大熊町に入りました。人がまったくいないので、聞こえるのは風の音だけ。想像を絶する状態でした。
松枝 私たちも事故1カ月後に飯舘村に入りました。
澤井 原発から2キロにJR大野駅があります。3月12日の強制退去時のまま、改札口のホワイトボードに「再開の見通しはたっていません」とありました。
松枝 私も荒れた田を見て涙がこぼれました。
澤井 多くの患者さんが死亡した双葉病院の玄関前には、ベッドや車椅子がそのときのまま放置されていました。これが原発事故なのですね。行って見てくるといいですね。
澤井 行くのは難しいけれど、福島の人びとの状態に思いをはせることが重要です。なのに、経済成長には原発の電気が必要だとかいつの間にかいつか来た道に戻ろうとしている。
松枝 もう、50、60年代のような経済成長なんてないのに。
澤井 明らかなのは、原発を止めても電気は足りるということ。昨夏に証明済みです。
松枝 経済成長は中高年の幻想と言ったら言い過ぎかな。
澤井 最近、女子大生に結婚願望が多いと聞きました。経済的に自立するとか、社会に貢献するとか、キャリアを積もうとか、戦後の参政権獲得から男女共同参画に至った女性の権利が、活用されない。
松枝 労働組合の後退も軌を一にして、まともに闘う組合は逼塞状態です。
澤井 労働組合も、形骸化、老朽化、動脈硬化をきたしていました。
松枝 動脈硬化は組織内の議論が足りないせいです。議論や対話がないとどんな組織も形骸化します。一つひとつ経験を積み上げるしかありませんね。
澤井 原発に代わるエネルギーの選択についても、合意形成のプロセスが大切です。それがないと、結局、原発を推進した時と同様に企業が儲けることだけが目的になってしまいます。
松枝 そうですね。お互いに諦めず、がんばりましょう。ありがとうございました。
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