原子力規制委員会(田中俊一委員長)は原発の安全対策を法律で義務付ける新安全基準の骨子案を発表し、2月末までパブリックコメント(意見募集)を実施している。規制委員会の権限強化を含む基準の法制化は7月を予定、平行して安定ヨウ素剤の配布など住民の防災対策へ自治体は地域防災計画の策定に取り組む。新安全基準で大規模な改修や廃炉を迫られる電力会社をはじめ原子力ムラの骨抜き工作や情報操作、業務妨害が表面化した。
新基準の骨子案には設計基準、過酷事故対策、地震・津波対策の3つの安全基準が盛り込まれた。その内容は@原発1基にポンプ車4台を配置、フィルター付きベント(排気)の設備、最前線基地となる作業拠点は免震、放射性物質を遮蔽する機能、電気ケーブルは不燃素材を使用、屋外に原子炉を冷却する放水設備、A原子炉建屋は津波を浸入させないよう密扉する、最大級の津波に耐える防潮堤を設ける、B活断層は過去12〜13万年以降の活動があったもので、必要なら40万年以降まで調べる、重要な建物は活断層が地表に表れていない地盤に設置する、など。
田中委員長は「世界最高水準の基準」と太鼓判を押すが、地震など震災リスクは人知を超える。また、「コスト増は全く考慮しない」と刺激的な見解を表明したが、新基準は「再稼働の最低基準」、あるいは「再稼働の免罪符」なのだ。
たとえば、地震が直接的原因の福島第一原発事故の教訓を踏まえれば、地震対策が最重視されなければならない。ところが活断層の調査結果を待たずに、従来の「12〜13万年前」以降を生かした。
早期の再稼働を待望し、再稼働にあたり新基準が足枷となって1基数百億円の改修費を要する電力会社が、運用の段階でも骨抜きを図るのは必至。それ以前に改修作業完了の3、4年先を待つことなく各社は電気料金の値上げに走っている。
原発11基を抱える関西電力の改修費用(見積もり)は1950億円、6基の九州電力は1283億円。13年3月期決算の純損益(見通し)は関電2650億円、九電3650億円の赤字。それを見越して、家庭向け電気料金を13年度から15年度まで、関電は11・88%、九電は8・51%の値上げを政府に申請した。
事故後原子力損賠支援機構の管理下にある東電は、柏崎刈羽原発7基がこの4月再稼働の目算が外れて、再建計画(総合特別事業計画)の見直しを発表した。賠償資金(税金)を6968億円追加投入し、総額3兆2430億円が特別損失に計上される。
昨年4月に電気料金を企業向け14・9%、家庭向け8・46%値上げした東電。除染・廃炉費用や円安による燃料費の高騰を見込んで再値上げを検討している。
原発再稼働へ規制委員会と電力会社の絡み合いの中から原子力ムラの膿が噴出した。原子力規制庁ナンバー3の名雪哲夫元審議官が敦賀原発の活断層調査報告書案を日本原電に渡す漏えい問題が発覚した。電力会社と官僚の癒着体質は、透明性と独立性を確保する名目で発足した規制庁に引き継がれている。
名雪元審議官は訓告処分されたが、文科省大臣官房に出向扱いになった。ノーリターンルールも崩された。
国会事故調査委員会による福島第一原発1号機の現地調査を東電が妨害した問題も発覚。田中三彦元委員が告発、対象の建屋4階にある非常用復水器の再調査を申し入れた。
なぜ東電は調査を妨害したのか。事故の原因が津波ではなく、地震によるものであり、耐震基準の厳格化を恐れたためと見られる。
さらに復興事業に絡んで暴力団の関与と違法行為、除染作業の手抜き、手当の中抜きが横行。復興予算に群がる下請け・孫請けの無法の構図は、原発労働の再現だ。
そのなかで、原発避難者の受難が続いている。東京・江東区の東雲住宅に避難していた男性(48歳)が孤立死した。一方では避難者が集団で東電を相手に訴訟や原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)への申し入れに立ち上がっている。
再稼働を目指す原子力ムラに対する避難者を軸に、脱原発の闘いは続く。
■原発ゼロ大行動3月10日(日)13時〜17時国会前
会場=東京・日比谷野外音楽堂
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