黒田日銀が2%の物価上昇率を2年程度で実現する「物価安定目標」を4月4日の金融政策決定会合で決定すると、その大胆な金融緩和策に投機市場が即反応しさらに円安・株高が進んだ。アベノミクスの予想以上の滑り出しに、安倍首相のリーダーシップに期待が高まり内閣支持率は70%台に張り付いた。だが、期待が膨らむほど、破綻後の失望は深い。安倍政権にとって転回点は7月の参院選だ。そこで大勝利すれば2016年まで国政選挙のない空白が続き、消費税増税も規制緩和も憲法改悪への法整備もスタンドバイとなる。アベノミクス一の矢=大胆な金融緩和はそんなにバラ色なのか?
日銀会合から週明けの8日、円相場は終値1ドル=98円83銭、日経平均株価は1万3000円台に乗せ、長期金利は0・525と低水準。デフレからインフレへマインド(心理)操作から始まったリフレ政策。ヘッジファンドなど投機マネーが動いただけで物価が大きく変化したわけではない。ましてや消費や企業投資による実需が増加に転じたわけでもない。円や株の高下に一喜一憂するとアベノミクスの術中にはまる。
日銀決定を見ておこう。黒田東彦総裁は白川時代とは「質量ともに次元の違う政策」を導入し、政策の「小出し」から2%物価目標の実現へ、「必要な時点」まで「量的・質的金融緩和」を継続する。
量的緩和は、ゼロ金利の現状から操作目標をコールレートよりマネタリーベース(市中に流通する貨幣と日銀当座預金の合計)に変更する。年間60〜70兆円増やし、12年末138兆円だったものを2年後はその2倍の270兆円を見込む。01〜06年の量的緩和が110兆円規模であったことからその額は桁外れだ。
質的緩和の主役は国債。白川日銀は1〜3年物の短中期国債と民間のリスク資産購入の基金を設け、13年末に111兆円の残高を予定していた。黒田日銀は基金を廃止し、長期国債買い入れに一本化。40年物まで買い入れ枠を広げ、10年物だけで8倍にし、13年末に140兆円まで増やす。3・8兆円だった毎月の買い入れは7兆円に倍増。年間の保有残高を50兆円ペースで増やし、買い入れの平均残存期間を3年から7年に延長する。
もう一つの質的緩和策は、リスク資産である上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(J―REIT)の買い入れをそれぞれ白川時代の年6000億円を1兆円に、年200億円を300億円に拡大する。株価上昇と不動産市況の活性化による投資と消費の拡大が狙いだ。
デフレ脱却へ何でもやると宣言した黒田総裁。元財務省財務官で為替介入に辣腕を揮い、退官後小泉内閣の内閣官房参与を務めた。財務省は為替安定、日銀は物価安定、政府は財政再建と三者一体でデフレ脱却を図り、国をあげて財界のための成長戦略を創るのがアベノミクスだ。
一の矢=大胆な金融緩和の工程表は、企業・消費者のインフレ期待→円安・株価上昇→企業業績向上→賃金アップ→消費需要増→設備投資増→企業利益増→デフレ脱却(インフレ2%)。二の矢=機動的な財政政策は公共投資→有効需要増→設備投資増が狙い。三の矢=成長戦略はTPP参加と規制緩和、イノベーションが中身だ。
バブルを演出する掟破りの日銀、そそのかすアベノミクス。早くもリスク警鐘が飛び交う。国債の大量購入が財政赤字の補填(財政ファイナンス)と看做されて国債価格が暴落→金利上昇→国債を大量保有する金融機関の財務体質悪化→貸し渋り・貸し剥がしによる企業倒産→失業の増大→不況のシナリオだ。
インフレは企業の価格競争力を減殺する。賃金アップのない物価上昇は庶民の消費を抑制する。何よりも、庶民を失業の怖れと生活苦に追い込むから問題なのだ。消費税増税判断の4―6月を乗り切って、参院選で逃げ切りを図るアベ政治を助長させてはならない。
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