憲法を改定し自主憲法の制定を最大の政治目的におく安倍首相が4月23日の参議院予算委員会で、「7月の参院選でも堂々と96条改正を掲げて闘うべきだ」と発言すると、これを合図に改憲勢力は堰を切ったように改憲議論を開始した。憲法施行66周年の5月3日に行われた全国各地の憲法集会はかつてなく緊張感がみなぎった。新社会党は改憲阻止の声を一つに国民的な大運動を盛り上げるとともに、参院選は憲法の生死を決するとして共同の闘いを呼びかけた。
自民党は昨年の総選挙で「国民の手に憲法を取り戻すこと」(自主憲法制定)を視野に入れ、96条改定から入ることを公約に掲げて勝利した。安倍首相は「憲法改正は自民党結党以来の課題。国民の過半数が96条改正を望んでいる」と改定の正当性を主張する。
改憲の手続きを定めた96条改定の要点は、@衆参両院の発議要件を総議員の「3分の2以上の賛成」から「過半数の賛成」に、A国民投票は「国民の過半数の賛成」を「有効投票の過半数の賛成」にする。普通の法律並みにハードルを下げる。
国会における改定発議には衆院320人、参院162人が必要だ。衆院は自民、維新、みんなの3党で367人になり、すでにハードルをクリア。夏の参院選では121議席が改選され、改憲阻止派の伸長が絶対必要だ。
96条の先行改定は権力が望む時に、望む立場で憲法を改定することが狙い。権力の暴走を戒めて権力を縛る現在の硬性憲法を、正反対の軟性憲法にするための手続きの改定である。だからこそ、96条改定は「立憲国家としての日本の根幹に対する反逆であり、革命である」(石川健治東京大学教授)。つまり、「憲法が憲法でなくなる」(水島朝穂早稲田大学教授)ことなのだ。
しかも、安倍首相は「憲法を変えたい」という国民の声に応えると言うが、何のために変えたいのか、具体的に9条を変えたいとは明示していない。それこそ正々堂々と、自民党の「日本国憲法改正草案」が改定の内容だと「但し書き」をつけるべきだ。
自民党の改憲草案は、日本を「天皇を戴く国家」と定め、天皇を元首とする。そのため天皇と摂政は憲法尊重擁護義務から外す。
また、明治憲法(大日本帝国憲法)にもなかった日の丸を国旗、君が代を国歌としてその尊重を義務付ける。国民を義務と責任で縛り、人権の上に「公益及び秩序」を置く。「すべて国民は、個人として尊重される」(13条)は「全て国民は、人として尊重される」に変え、主権者を国民から国家へ大転換する。
改憲の目玉の9条は自衛権を明記し、自衛隊を国防軍に変え、海外での軍事行動を容認する。96条改定は正に壊憲の入り口である。
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