第二次大戦で日本が朝鮮、中国等アジア諸国を侵略・植民地化した歴史を否定する安倍首相と、旧日本軍従軍慰安婦制度は必要だったと人権感覚ゼロを見せつけた日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長の発言に同盟国である米韓両国政府から非難の声が上がり、維新の会ばかりか憲法改悪を射程に入れる安倍政権も収拾に追われている。とかく反応が鈍い日本の世論だが、女性の人権冒涜を怒り、希薄な歴史認識を批判する声が高まるなか、「日本の恥」を代表する人物を首相や市長に選んだ不明をこそ恥じるべきだ。新社会党は橋下発言を糾弾する党声明を出した。
安倍首相は歴史を曲げるな
一連の歴史認識問題の口火を切ったのは4月21日の麻生太郎副総理らの靖国参拝だった。真榊の奉納にとどめたものの韓国や中国の反発を招いた安倍首相は、23日の参院予算委員会で「侵略という定義については、学界的にも国際的にも定まっていない」と述べ、火に油を注いだ。
5月7日の朴槿恵韓国大統領の訪米を前にした1日、米議会調査局が安倍首相を「強固な国粋主義者」と名指にし、首相の思想傾向を「帝国主義日本の侵略やアジアへの犠牲を否定する歴史修正主義にくみしている」と言い切った。朴大統領はオバマ大統領との会談に続き議会演説でも「日本の正しい歴史認識が必要」と訴えた。
米国政府の立場は「米韓日3国の結束強化」による中国、朝鮮半島をにらんだアジアの安定支配だ。そこへ橋下発言が飛び出した。発言は旧日本軍の「当時」と在沖縄米軍の「今」に共通した問題として、兵士の性的エネルギーをコントロールする上で、「当時」は従軍慰安婦が、「今」は風俗業が必要というものだった。
橋下発言は、従軍慰安婦制度を正当化する論拠として4つの論点に触れた。第1は、「あれだけ銃弾が飛び交う中、精神的に高ぶっている猛者集団に休息を与えようとすると制度が必要なのは誰だってわかる」という必要論。第2は、「なぜ日本だけが取り上げられるのか、当時は世界各国が持っていた」という世界共通の制度論。第3は、「暴行、脅迫した事実は裏付けられない」という強制性の否定。
そして第4は、「慰安婦制度は今は認められないが、風俗業は必要だ。だから、沖縄に行った時、(米軍の)司令官に会いもっと風俗業を活用して欲しいと言った」という米国同罪論だ。
橋下発言は国家の暴力装置としての軍隊の存在と武力行使としての戦争の容認=憲法9条否定が前提。その上で軍が関与した従軍慰安婦制度と売春を同列視し、「当時」の国・軍の関与を否定する。
軍隊の売春を認めていない米国は橋下発言を「言語道断で侮辱的」とし、慰安婦制度は「深刻な人権侵害」とする政府のコメントを発表した。これを受けて、橋下氏は「不適切だった」と釈明したが、謝罪と発言の撤回は拒否した。沖縄で続く米軍兵士による性暴力。橋下発言はそこを衝いたが、説得力はない。米軍が占領する沖縄には戦後一貫して9条はないも同然だからだ。
怒る女性、アジア諸国
橋下市長も安倍首相とともに名うての改憲論者だ。橋下発言は従軍慰安婦制度の強制性と軍・国の関与を認めた「河野談話」(93年8月4日)を否定。安倍発言はアジア諸国に対する「植民地支配と侵略」を反省した「村山談話」(95年8月15日)を否定したものだ。
安倍首相は米国政府の強硬な態度を見て15日、「アジアの国々に多大な損害と苦痛を与えたことは安倍内閣としても歴代内閣の立場を引き継ぐ」と表明。しかし、「植民地支配と侵略」の歴史認識については「私は今まで日本が侵略しなかったと言ったことはない」と詭弁を弄し、「しかるべき時期に未来志向の談話を発表したい」と首相就任前の発言を繰り返した。
日本を代表するもう一人の国粋主義者で維新の会共同代表の石原慎太郎衆院議員は、「軍と買春はつきもの」と橋下発言を弁護。その一方で侵略を肯定する橋下代表を批判した。石原代表にとって先の戦争は自衛戦争であり、1910年の韓国併合は韓国の総意によると、武力による侵略と植民地化の歴史を改ざんする歴史認識を示した。
安倍首相らは「河野談話」と「村山談話」の踏襲を明言し、とくに橋下氏は元慰安婦とすべての女性に謝罪し、大阪市長など公職を辞任すべきだ。
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