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2013.9.03
『はだしのゲン』の閲覧制限
手続きで撤回 


 島根県松江市教育委員会が、漫画『はだしのゲン』(中沢啓治作)を小中学生には「過激」として閲覧制限の閉架措置をとったことに批判的世論が拡大、市教委(内藤富夫委員長)は8月26日の委員会で閲覧制限を撤回した。閲覧制限の撤回を求めてきた市民は「当然のこと」としながら、「手続きに問題」とする撤回理由には不信を残した。「戦争はしない」、「教え子を再び戦場に送らない」と誓った憲法と平和教育の一層の空洞化につながるだけに、教育行政の体質が問われる。


 事の発端は昨年8月、『はだしのゲン』を図書室から撤去を求めた陳情にあった。「ありもしない日本軍の蛮行が描かれており、子どもたちに誤った歴史認識を与える」という理由からだ。12月議会は全会一致で不採択にしたが、一部議員が「不良図書」と蒸し返し、市教委は漫画の内容を確認。そして、市内49小中校の校長会に閉架措置を2度要請した。
 市教委判断の基準となった「過激シーン」は、「旧日本軍がアジアの人々の首を切ったり、女性が性的乱暴をされる場面」。市教委は、史実そのものよりも「描写」を問題にした。しかも、閉架措置は5人の委員に諮ることなく、教育長と事務局の官僚判断≠ノよるものだった。

 子どもの目

 『はだしのゲン』は原爆被爆者の悲惨な生活を通して、戦争の真実を描いた作品。小学3年から教材に使っている広島市では、「全体として家族のきずなや命の尊さ、平和を訴えた」作品(松井一実市長)なのだ。
 汐文社版(1975年)第1巻のあとがきに、文芸評論家の尾崎秀樹氏が「戦争を知らない世代にぜひ」と推薦文を寄せ、「戦争のおそろしさは……戦争に対する批判や反対はもちろん、積極的に協力しないものはすべて疎外してしまうことにある」と書いている。
 だから、『はだしのゲン』は反戦漫画である。非国民として町内会や国民小学校でうとまれたゲン一家、天皇陛下バンザイと叫んで断崖から飛び降りグシャとつぶれる母子、集団自決を強いられた子どもの首が飛ぶ沖縄戦、死ぬのが恐いと叫ぶ特攻隊員、日本中が戦争に狂っているとつぶやく兄、日本人の命を犬死させた天皇陛下をうらむと憤る母―。
 著者の中沢は体験から、「子どもらは素直に何が真実かを見きわめてくれます」と述べている。子どもたちが戦争とは、原爆とは、その真実を掴むことを恐れる勢力にとって、『はだしのゲン』は目の上のタンコブだ。

 文化後進国

 暴力やセックスは漫画や映画に氾濫している。だがそれらが「過激」として禁止された話は聞かない。その一方で、侵略戦争や従軍慰安婦(性暴力)を告発する教科書が禁書扱いにされ、平和教育受難の時代を迎えた。
 『はだしのゲン』は世界20カ国で翻訳されている。市教委の全小中校アンケートでは16校が「閉架の必要性な」、8校が「再検討すべき」、5校が「必要性あり」と答えた。世界の文化後進国とならないためにも、現場の奮起を促したい。

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