事故続きのJR北海道(野島誠社長)に世論の厳しいメスが入り、安全軽視の異常な経営体質の一端が暴かれた。2011年5月に石勝線のトンネル内で特急が脱線炎上し、79人が負傷した事故でJR北海道は国交省から業務改善命令を受け、当時の社長が自殺。遺書に「お客様の安全優先を考えて欲しい」としたためたが、この2年間安全対策は置き去りにされっぱなしだった。自己反省のない病的とも言える経営体質の根源は、1987年の国鉄分割・民営化に遡ることができる。
今年に入ってからの主な事故を拾っても特急電車のエンジン、車軸、配電盤の出火や潤滑油漏れ、貨物列車の脱線と8件も発生。運転・車両、保線、電気など保全業務に異常が集中している。なかには特急運転士(32歳)が運転席の自動列車停止装置(ATS)のスイッチをハンマーで壊すというトラブルも露見した。
国交省は9月21日から27日まで特別保安監査に入ったが、そこでクローズアップされたのは保線部門。レール幅が安全基準値を超えて放置されていた問題で、JR北海道は副線のみ8カ所(21日)→本線・副線97カ所(22日)→12線267カ所(25日)とその後出しに管理のずさんさを見せつけた。
しかも、時速130キロの特急が走行する函館線で65カ所、室蘭線で16カ所、根室線で6カ所。脱線など重大事故が起きていないのが不思議なくらいだ。
レールの安全性は軌道検測車が検査し、異常があれば保線所・本社に伝達され、即修態勢がとられる。その態勢がとられなかったのはなぜか?JR北海道は1985年に新レールに切り替えて補修基準が緩和されたが、古いレールにも新基準を誤って適用していたと弁明した。
マンパワーが不足
それではなぜ、イロハの基準適用が見過ごされたのか?その原因として安全意識や危機意識の欠如が指摘されている。たとえば昨年、今後10年間に1300億円の安全対策を盛り込んだ「安全基本計画」を策定していながらペーパープランに堕していた。
また、社員の年齢構成の偏り(50代37%、40代8%、30代25%)、技術断層、車両検査や保線業務の下請け・外注化も指摘された。どの指摘も正しい。野島社長は22日の記者会見で、「マンパワーは足りている」と述べたが、そのマンパワーの不足こそが事故体質を生んだ最大要因なのだ。
JR北海道の事故体質は国鉄の分割・民営化を機に育まれた構造的なもの。国鉄改革は「企業性・効率性を発揮させて公共性は確保される」(第二臨調第四部会報告)という転倒した理念に貫かれていたからだ。
JR北海道はJR四国、九州とともにその経営の不安定さを経営安定基金によってカバーし、「公共性よりも企業性・効率性」を追求してきた。JR発足にあたり、国労・全動労所属の経験と技能に富む職員(マンパワー)を一挙に4242人不採用(首切り)にした。
JR発足当初、1万4000人いた職員は、現在7100人。この間に運転本数は2倍、保全・検査業務の効率化・外注化が進んだ。
ちなみにJR北海道の経営状況(13年3月)は、鉄道事業が309億円の赤字、連結営業損益は237億円の赤字。それを安定基金(現在6822億円)で辛うじて黒字を確保しているが、株式上場には程遠い。しかも2年後に北海道新幹線の開業が迫る。経営陣の関心は輸送の安全よりも儲けに向き、付随して社員のモラルが蝕まれていった。
無責任大国、日本
国交省の特別保安監査が終了したその日、神戸地裁は、05年に107人が死亡したJR西日本宝塚線事故で、歴代3社長を無罪とする判決を出した。今なおJR西に君臨する井手正敬元会長は、「責任は会社がとるべき」とうそぶいた。この国の無責任体制は、原発事故にも連綿と引き継がれている。
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