 |
雨宮処凛さん
(作家) |
も少しましな社会
昨年、特定秘密保護法が成立してしまいました。12月6日を民主主義が死んだ日にならないようにしなくてはなりません。
書き手である自分の活動に関わっている問題なので、自分のビビリとも闘わなければなりません。国家の秘密が大切で、人の命を踏みにじる政治には、すごく怒りを感じています。
今後も引き続き労働と生存の問題を追いかけます。一部の人を犠牲にし、地方を切り捨てる原発問題などを放置していたら、人びとが連帯できない、ほんとうに歪んだ日本になってしまいます。
日本は新自由主義によって完全な階級社会になってきました。共存の意識が薄れて在日が悪い、悪い奴は死ねという恐ろしい空気に抗していきたい。
憲法についても正しいことを大声で言っても、ブラック企業で酷い目に遭っている人たちには夢物語でしかありません。だから、もう少し人間らしいましな生活、もう少しましな社会にしないといけないと訴えて活動を続けたいと思います。
そうすることで、結果的に憲法がリアリティを持つ社会になっていきます。自身が諦めないで、諦めている人に伝えていきたい。
 |
長南博邦さん
(新社会党書記長) |
2年後を見据えて
特定秘密保護法が成立した12月6日は、安倍自民党の「終りの始まり」です。2016年まで向こう2年間に、生活と民主主義破壊の攻撃がいっそう強まるでしょう。しかし、自公に代わる受け皿がありません。維新、みんなも含めて国会は総保守化しています。
新社会党は今年で結党18年になります。自分の1票で国政が動くことに期待する有権者に、このままでは世の中は変わらないと訴え続けてきました。脱原発、反貧困、戦争への道を許さないと主張し、受け皿づくりに頑張ってきました。
来年には統一自治体選挙があります。安倍政治を止めるために、共同の政策と候補を立てて闘い、2年後の参院選では共同の場ができるようにしたい。
かつて高度成長期の政治は自社対決の55年体制と言われました。あの頃は、政治は議員にお任せの風潮がありました。しかし、議員任せでは民主主義の基盤は広がりません。
自治体議会でも秘密保護法反対の意見書を提出して隣のおじさん、おばさんに話しかけることが大事です。若者からもあの人なら話を聞いてくれると思われるようにしたい、2年後に見ていろ!の気概で頑張ります。
長南 今回は松枝委員長に代わってよろしくお願いします。さて、2013年12月6日は記憶にとどめるべき日となりました。
雨宮 私も11月頃からデモやシンポジウムに参加したり、記者会見したりして注目していました。12月4日から6日まで国会を傍聴して、1万人以上の人が反対して集会やデモをしているのに、安倍政権は数の論理で秘密保護法を成立させました。ショックでした。
長南 沖縄の山城博治さんは本土が沖縄化されるというのに、本土の人はなぜ怒らないのか、取り返しのつかないことになるぞと言っていました。
雨宮 私たちが危惧していることは、漠然とヤバイという空気が醸成されて自己規制していくことです。
長南 考えてみれば職場は何十年も前からそんな状況です。言いたいことを言えば査定され、処分されて萎縮していくんです。労働組合も頭から腐ってきました。
雨宮 いつ頃?
長南 高度成長へ離陸する時に民間で始まり、官公労に飛び火して連合が総評に取って代わりました。今は闘う組合が少数で、若い人はよけい大変です。
雨宮 今の30、40代は組合が強い良き時代を知らない。労働基準法に守られることも知らずに就職して、これじゃブラック企業が繁殖するはずです。
長南 私は社長になろうと小さな製薬会社に入りました。自分が成果を上げると仲間が首を切られると、社会の矛盾に気付き、組合にはまりました。
雨宮 2000年代に入ると非正規、若年層の貧困が問題になり、プレカリ
アートの運動が始まりました。でも、当事者の多くには何とかしようという発想すらない。利益を上げないと価値がないと言われ、ひどい労働状態に置かれている。とくにリーマンショック後は体力も時間の余裕もカネもなく、労働運動に参加すらできない層が増えました。
長南 私も千葉県東葛地域のユニオンで労働相談活動をしています。このあいだも、パワハラで体を壊した契約労働者から相談がありました。

雨宮 何歳ですか。
長南 30歳です。また、母親の年金を頼りに生活していた50代の男性から母親が亡くなり葬式を出すお金もないと相談されて、何とか生活保護を受給できるようにしました。
雨宮 親が亡くなると年金が出なくなるので、そのことを隠すという事件が話題になりましたね。
長南 学生時代のバスケット部の後輩で技術屋なのに、子会社のショールームに飛ばされた人がいます。性格が明るく、その職場を明るくしてしまい、次にリストラ部屋へ押し込められました。そこでも周りを励まし、さらに就業規則無視の業務応援に回されて争っています。
雨宮 強いですね。
長南 彼のいいところは会社を元の風土に戻すという思いがあることです。私の下の息子はゲームプログラマーになろうとしましたが、就職氷河期で果たせませでした。しかし就職できていたら殺されたかもしれません。
雨宮 ゲーム業界は一番のブラックですよ。私の周りには就職できない、過労でやめるとか、本人の責任ではないのに肉体や精神を破壊された人が大勢います。親の理解がなく引きこもりの末家庭内暴力にはしったり、世間から甘えだ、ダメだと言われて、リストカット、はては自殺する。この社会には生きさせない構造があって、普通に生きられるのは特権階級だけみたいな歪みがあるのに自分を責めてしまう。
長南 新社会党は96年に結成し、今のような社会になることを恐れていました。でも私たちの言葉は届きませんでした。
雨宮 私の弟はY電機で働いていて、1日17時間労働、正社員になるときに組合に入らない、ボーナス・残業代なしの誓約書を書かされました。パワハラが酷く、顔を靴で踏まれる人もいる会社で、やめるように説得したのに、自分のようなダメな人間を雇ってくれたと会社に感謝してしまう。就職難でどんなに酷い目にあっても怒らない。そういうことが隅々に行き渡った社会になりつつあるのではないでしょうか。
長南 近所の息子さんはBカメラで働いていて縊死しました。
雨宮ええ!
長南 父親に、会社に問題があるのだから交渉しましょうかと言ったのですが、泣き寝入りでした。
雨宮 激安は消費者にとってはいいけれど、労働者は激安で働かされている。組合だ、権利意識をと言ってもリアリティがない。自己否定のスパイラルに入ってしまう。だいたい、自己肯定感があれば怒れるけど、それすら持てていけない人も多い。
長南 以前の企業風土は地域も大事にして、利益を文化向上に配分していました。今は儲け一本槍。負担は極力嫌って社会保障を削ってしまう。
雨宮 改悪生活保護法が成立しました。建築基準法違反の1畳、2畳の脱法ハウスに若い人が住み、それを閉鎖するとなったら路上に追い出される。生活困窮者自立支援法が成立してもどうなるか怪しいものです。
長南 生活保護は50以上の制度に影響します。国とは別枠で自治体レベルでもやらなければならないことがたくさんあります。年越し派遣村以後、少しは良くなりましたか。
雨宮 あれは衝撃的でした。日本で貧困が再発見された日です。自己責任を押し付けるのはおかしいという声が沸き上がり、政権交代の原動力にもなりました。でもブームが去り、2011年の3・11で飛んでしまいました。被災地のことを考えろ、首になったくらいでガタガタ言うなと。その一方ではデモなどで声をあげて行動することが普通になった始まりの年でした。3・11デビューの人が結構います。意識の変化を感じますね。
長南 以前は組合が政治教育をやったものです。
雨宮 どういう?
長南 政治や経済、労働者の権利、物の見方・考え方とかです。
雨宮 すごいですね。組合の教育によっていじめの構造や敵が見えてくる。それが見えないから、在日が悪いとかアブナイ話になってしまう。自殺に追い詰められた人とヘイトスピーチしている人は大差がないかもしれない。彼らの言っていることが悲鳴に聞こえます。苦しさの原因がわかる人とわからない人の落差が大きいですね。
長南 転機は、95年に日経連が出した「新時代の日本的経営」でした。
雨宮 それによって、日本は企業社会的な価値観で埋め尽くされてしまった。家族や友達、コミュニティーにまで競争原理がもちこまれた気がします。
長南 大学に行きたいがお金がないので、自衛隊に行く若者が増えています。
雨宮 日本でも貧困大国アメリカと同じことが起きています。大学に入学して奨学金を借りると卒業時に700?800万円の借金を背負う学生も多い。とにかく就職して借金を返したいからブラック企業が減らない。しかも自分の奨学金の借金を返し終える48歳頃には、子どもの大学入学期というとんでもない社会です。
長南 僕が学生の頃は月々の学費が1000円でした。
雨宮 へえ、今の若者は借金とブラック企業のマイナススパイラルに閉じ込められた債務奴隷状態ですね。
長南 制度そのものをチャラにする法的な仕組みをつくらないと貧困の連鎖が続くばかりですね。若者が健全に育たなければ民主主義は死んでしまう。
雨宮 若者の間に台頭した戦争待望論は、戦争になれば自分は浮上できるという思いがあるからです。
長南 今の若者はだらしがないとか、お説教ばかりだと反発されるだけですね。
雨宮 若者の鬱屈(うっくつ)に寄り添わないと事は始まりません。あなたの責任ではない、と。
長南 ここは思いきって非正規の若者を自治体議員に出したいですね。貴重なお話をいただき、ありがとうございました。
|