安倍首相は今年に入ってアフリカ4カ国、スイスのダボス会議、インドと6カ国を訪問し、施政方針演説でも「地球儀を俯瞰するトップ外交」を誇示した。しかし、靖国、領土問題などにみる首相の言動は近隣諸国ばかりか米欧諸国にも「民主主義国家」の指導者としての資質に懸念を抱かせている。最近では安倍政権の肝いりで就任したNHK会長の顰蹙(ひんしゅく)発言、安倍首相のダボス発言、中学高校指導要領解説の改定など枚挙にいとまがない。
籾井勝人NHK会長の就任会見(1月25日)は三井物産出身とは思えないほど国際感覚に欠けていた。領土問題について「尖閣は明確に日本の領土」「政府が右ということを左と言うわけにはいかない」と述べ、靖国神社参拝では「総理が信念で行かれたということで、それはそれでよろしい」と賛同、「千鳥ヶ淵じゃだめだという人が大勢いる」とケリー米国務長官とヘーゲル国防長官の千鳥ヶ淵墓参を揶揄さえした。
韓国、中国にとってセンシティブな従軍慰安婦問題では、「この問題はどこの国にもあったこと…ドイツやフランスになかったと言えるのか」「(韓国とは)日韓条約ですべて解決しているのになぜ蒸し返すのか」と反駁した。昨年12月に成立した秘密保護法については、「政府が必要と説明しているので様子を見るしかない」との態度を表明した。そのくせ「放送法に基づいて判断していく」、政府の意向を代弁する考えは「ない」と弁解した。
この籾井発言に、国内からは「不見識だ」「節度がない」「偏向だ」などと辞任を求める批判が噴き出した。韓国からは「歴史認識の危険な水準」が指摘され、中国は「(安倍首相の)歴史に逆行する行為をとっていることと同じ流れ」と牽制した。
籾井発言に「正論だ。僕と同じ」と賛意を表明したのは、慰安婦発言で民心離れを招いた橋下徹維新の会共同代表だが、安倍政権の「チームアベ」は素早く火消しにかかった。菅官房長官は「会長の発言なら取り消すと言われているので問題はない」と一蹴して見せた。
安倍首相のトモダチを補強したNHK経営委員(12人)は「注意」にとどめ、1月31日の衆院予算委員会に参考人として招致された籾井会長が、「誤解とご迷惑をおかけして申し訳なく思う」と陳謝して沈静化が図られた。なお、その経営手腕が評価されて続投が期待された松本正之前会長を辞任に追い込み、籾井氏を推挙し、中島尚正・海陽中等教育学校長を経営委員に押し込んだのは、安倍首相を支える葛西敬之JR東海会長その人だ。
籾井発言は安倍首相の本音を代弁した。そこに「誤解」の余地はない。NHKは「不偏不党」「真実及び自律を保障」「表現の自由を確保」し、「民主主義の発達に資する」と規定する放送法に基づいて運営されなければならない。籾井発言はこの原則を逸脱し、安倍政権のスポークスマンに堕した。
非武装中立の絶対平和主義から戦争のできる「積極的平和主義」を志向する安倍政権。国民の人心改造へヒドイ人物を担いだ。
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