NHK会長や経営委員の「問題発言」は安倍首相の側近・ブレーンに飛び火した。いずれも安倍首相を慕う「チームアベ」の忠誠の証。政権スポークスマンの菅官房長官がいかに火消しに務めようと、世界の常識と安倍政権の非常識との溝は埋まりそうにない。
側近の「問題発言」の発端は、安倍首相の昨年12月26日の靖国神社参拝。これを受けて米国が「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動をとったことに米国政府は失望している」との声明を発表。「問題発言」はこの「失望声明」に反論した。
その一番手は、衛藤晟一首相補佐官。ユーチューブに投稿した国会報告の中で、「むしろわれわれが失望だ」と書き込んだ。続けて「(米国の)声明は中国に対する言い訳にすぎない」「米国は同盟関係にある日本をなぜ大事にしないのか」と不満をぶつけた。これが問題になると、菅官房長官は「個人的見解だ。日本政府の見解ではない」と沈静化を図った。
二番手は、本田悦朗内閣官房参与。米紙ウォールストリート・ジャーナルのインタビューで、靖国神社を参拝した安倍首相の「勇気を高く評価」し、参拝の動機について「日本の平和と繁栄は彼ら(神風特攻隊)の犠牲の上にある」ことを挙げた。
三番手は、萩生田光一自民党総裁特別補佐。身内の講演で、「共和党政権のときはこんな揚げ足をとったことはなかった。民主党政権だから、オバマ大統領だから言っている」とオバマ大統領を名指しで批判した。相手が米国ではなく、中国であったら官房長官自ら反論したことだろう。
米国は自由と民主主義という「普遍的価値」を共有する同盟国。首相就任の所信表明演説で、民主党政権で崩れた米国との「絆を取り戻す」と宣言し、直後のオバマ大統領との会談で「緊密な日米同盟は完全に復活した」と誇示した安倍首相。米国の「失望声明」は予想外であり、衝撃であったようだ。衛藤氏ら側近はそうした首相の心中を察し、代弁した。
米各紙の安倍首相の評価は「保守的な国家主義者(ナショナリスト)」と共通しており、日米関係の冷え込みに懸念を表明。日本のマスコミも「安倍首相そのものが日米関係のリスクとなりつつある」(朝日)と警告する。
たしかに、ブッシュ共和党政権時に小泉首相(当時)は6回靖国神社を参拝したが、米国は何も言わなかった。オバマ民主党政権となって、世界戦略がアジア重視に転換し、とくに世界第二の経済大国となった中国との関係が神経質なものになった。
こうして日米関係をめぐる環境が変化する中、安倍政権は日米同盟を軸に軍事的な同盟の深化から自立を志向し始めた。それは「東京裁判・サンフランシスコ講和条約・日米安保条約」体制からの脱却、自主憲法制定路線へと進むことが予定されているのだ。
だからこそ、戦後の平和は米国に与えられたものではなく、「英霊」の屍の上に築かれたものというストーリー(靖国思想)が必要となる。安倍首相の「日本を取り戻す」政治は、真正右翼(国粋主義)の危うさをはらんでいるのだ。
米国は差し当たり、日本を自ら築いた戦後体制の枠に押しとどめようとする。枠からはみ出そうとする政権には、鳩山民主党政権のように失脚を画策し、安倍政権には「失望」してみせる。
日米関係がきしむ局面で、私たちはあくまでも日米安保条約の解消、9条を持つ憲法に立ち戻る政治の実現へたたかい続ける。
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