国賓として4月23日に来日したオバマ米大統領は、安倍首相との首脳会談の成果を1日遅れの25日に発表して次の訪問国韓国へ飛び立った。その共同声明は安倍政権の「積極的平和主義」とオバマ政権のアジア重視の「リバランス(再均衡)」がクロスしてまとめられた。焦点は、日米同盟が「アジア太平洋地域の平和と安全の礎であり、グローバル協力の基礎」であることを確認し、同時にTPP
(環太平洋経済連携協定)を同地域の安全保障の基盤として位置付け、両国が野心的、包括的な高い水準の達成へ主導的役割を果たすことの2つだった。
日本政府は、安保政策上の会談結果は「満額回答」と手放しの喜びようだ。オバマから「日本の施政下にある領土は尖閣諸島も含めて、日米安保条約第5条の適用対象」との言質を取り、共同声明にも「尖閣諸島に対する日本の施設を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する」との文言を入れることに成功したからだ。
また、安倍政権が進める集団的自衛権行使の容認に向けた憲法解釈の見直しについても、「取組みを歓迎し、支持したい」というオバマの後ろ盾を得たからだ。
もっともアジア重視のオバマは、尖閣問題については中国との間で「事態がエスカレーするのは正しくない」と釘を刺した。しかし、集団的自衛権行使の解禁はアメリカが求めてきた政策だ。
TPPについて、共同声明は「前進する道筋を特定した」「妥結にはまだなされるべき作業が残されている」と合意を先送りしたが、会談を通して戦略を共有した。まず、TPPでアジア太平洋地域に「自由、民主主義、法の支配など普遍的価値を共有する国々と新たな貿易ルール」を作り、将来的には12カ国に加えて、中国を呑みこむという道筋だ。
日米合意先延ばし
TPP日米協議は日豪EPA (経済連携協定)が成立した4月7日以降、大車輪の動きを見せた。昨年12月からフロマン米通商代表部代表と甘利TPP担当相の協議は、オバマ来日中も含めて8回に及んだ。
しかし日米合意は先延ばしされた。今回の激しい動きはアメリカが秋の中間選挙を控えTPPどころではなくなりつつある情勢を受けて、年内決着を図るうえで最後のチャンスだった。
ここでオバマは日本に完全勝利(牛肉、豚肉の関税撤廃)する必要があった。なぜならオバマは、足元の民主党や労働組合のTPP反対に遭い、いまだにTPA
(大統領貿易促進権限)を議会から与えられておらず、実権なき王様だったからである。逆に、日本には交渉を急ぐ必要はなかったといえる。
とはいえ、日米首脳会談の成り行き次第でTPP交渉が一気に進む可能性がないわけではなかった。その先鞭となったのが日豪合意である。
日豪EPAは、現在38・5%の牛肉の関税を@冷凍物は18年かけて19・5%に関税を引き下げ、冷蔵物は15年後23・5%に引き下げる、A冷蔵肉の輸入量13万トン(冷凍は19・5万トン)を越えれば、そして10年後は輸入量が14万5000トン(冷凍は21万トン)を越えればセーフガードを発動し、関税を元の38・5%に戻す、B豪は児童車関税5%を撤廃するというものであった。
これは「牛肉を含む重要5品目は関税引き下げ対象から除外するか再協議とする」との国会決議を完全に逸脱していた。さっそく農業者、農協、自治体などから「国会決議違反だ」、「公約違反だ」との猛抗議が上がった。
ところで日米協議の対立も「日本の牛肉、豚肉の関税撤廃」対「米の自動車関税の撤廃」と日豪EPAと同じ構図である。日豪の合意を見てアメリカが「国会決議を突破できる。少なくとも豪より安くできる」と考える口実を与えたことは間違いない。現に、アメリカはそう動いたのだ。
こうした一連の動きではっきりしたことは、政府・自民党が重要5品目に関する国会決議を守り通す意思がないことだ。政府自民党の裏切りに抗議し、直ちにTPP交渉から撤退することを求めていかねばならない。
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