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 2014.06.03
大飯原発差止め
福井地裁 画期的な判決


 福井地裁(樋口英明裁判長)は5月21日、関西電力に対し、大飯原発3、4号機の運転差止めを命じる画期的な判決を出した。脱原発弁護団全国連絡会は、「原発の抱える本質的な危険性を深く認識し、差止めの結論を導いたものであり、これからの脱原発訴訟に大きな影響を与える」と評価。住民勝訴の判決はこれまでに北陸電力志賀原発2号の運転差止めを命じた金沢地裁判決(06年)、もんじゅ設置許可を無効とした名古屋高裁判決(13年)の2例があるが、福井地裁判決の画期性は東電福島原発事故の教訓を踏まえ、人の生命・精神・生活など憲法に定められた「人格権」を最上位の価値に置き、これを「解釈上の指針」としていることにある。

 判決文(要点)

 「個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体が人格権であるということができる。人格権は憲法上の権利であり(13条、25条)、また人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない。したがって、この人格権とりわけ生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは、人格権そのものに基づいて侵害行為の差止めを請求できる…人格権は各個人に由来するものであるが、その侵害形態が多数人の人格権を同時に侵害する性質を有するとき、その差止めの要請が強く働くのは理の当然である」

 経済性より安全性

 「原子力発電所の稼働は法的には電気を生み出すための一手段たる経済活動の自由(憲法22条1項)に属するものであって、憲法上は人格権の中核部分より劣位に置かれるべきものである。しかるところ、大きな自然災害や戦争以外で、この根源的な権利が極めて広汎に奪われるという事態を招く可能性があるのは原子力発電所の事故のほかは想定し難い…少なくともかような事態を招く具体的危険性が万が一でもあれば、その差止めが認められるのは当然」「原子力発電技術の危険性の本質及びそのもたらす被害の大きさは、福島原発事故を通じて十分に明らかになったといえる。…かような事態を招く具体的危険性が万が一でもあるのか判断の対象とされるべきであり、福島原発事故の後において、この判断を避けることは裁判所に課された最も重要な責務を放棄するに等しい」

 耐震性の欠陥を指摘

 訴訟原告団(中嶌哲演団長・小浜市の明通寺住職)は住民ら189名。判決は原子力委員会の近藤駿介委員長(当時)が不測事態シナリオとして避難対象に指定した250キロ圏以遠の23名の請求は棄却した。判決を受けた原告団は「原発の『必要神話』や『安全神話』の理不尽な復活と『フクシマ』の意図的な風化に対する『頂門の一針』であり、司法の面目をほどこした英断である」との声明を出した。

 判決は、大飯3、4号機には地震の際の冷やす機能と閉じ込める構造に欠陥があるとして被告・関西電力の主張を退けた。
 その冷やす機能について、原発の冷却システムは1260ガルを超える地震により崩壊するとされている。しかし、関電は@700ガルの事象を想定した対応、A原発周辺の活断層の調査から700超の地震は考えられない、B原発施設には安全裕度があり、たとえ基準地震動を超える地震が到来しても直ちに施設損壊の危険性は生じない、C主給水(冷却機能維持の命綱)ポンプは安全上重要な設備ではないから、耐震安全性の確認は行われていないと主張した。
 これに対し、判決は「根拠のない楽観的な見通しにすぎない」と一蹴した。
 閉じ込める構造について、関電は「使用済み核燃料は通常40度以下の水による完水状態を保てばよく、堅固な施設で囲い込む必要はない」と主張。これに対し、判決は「国民の安全優先の見識に立つのではなく、深刻な事故は滅多に起きないだろうという見通しのもとに成り立っている」と批判した。
 関電はその他、@電力供給の安定性、コスト低減、ACO2排出削減に資するなどを主張。これに対し、判決は「多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いの問題を並べる議論の当否を判断することは法的に許されない」「豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である」と反論した。

 再稼働を断念し適合審査中止を ―脱原発弁護団が求める

 福井地裁の「高い倫理性」を示した判決に、政府と電力会社は再稼働方針に変わりはないとして、原子力規制委員会の新規制基準を飛び越える判断だと逆ギレした。当の田中俊一規制委委員長は、「我々は我々の考え方」とはぐらかした。
 この画期的な判決を守り抜くために、脱原発弁護団は@原子力規制委員会に対し、再稼働のための適合審査中止、耐震設計などの根本的な再検討を、A政府・国に対し、再稼働断念、原発政策の根本的見直しを、B電力会社と立地自治体に対し、原発推進・依存からの脱却、再生可能エネルギー中心のエネルギー政策の転換を求めている。

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