安倍政権は7月1日、集団的自衛権行使を容認する憲法解釈の変更を閣議決定した。公明党は朝の与党協議で合意。海外で戦争のできる国へ、憲法9条の下の安保政策は大転換することになる。前日の6月30日に官邸前で1万人規模の抗議行動を展開した市民らは、秋の臨時国会に提出が予定される関連法改悪阻止を誓った。
安倍政権は6月24日、来年度予算編成の骨格となる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)」と「日本再興戦略改訂」、「規制改革実施計画」を閣議決定した。検討機関は順に経済財政諮問会議、産業競争力会議、規制改革会議。いずれもアベノミクスの更なる推進による日本再興(好循環拡大へ)を目指す。期間は東京五輪開催の2020年が目安、それまでに労働、教育、社会保障、税制、国・地方の行財政など従来の制度・システムの根本改革を計画。むろん、消費税の10%への増税は想定内だ。国民の期待を煽る経済財政面の日本改造方針は憲法改定への環境整備と軌を一にする。
骨太方針
骨太方針は、この1年間にアベノミクス3本の矢(金融政策、財政政策、成長戦略)が功を奏し、デフレで失われた自信を取り戻しつつあると評価。切れ目のない政策により実質GDPが6四半期連続プラス、新規求人倍率が7年ぶりに1・6倍台、失業率は3%台、企業の設備投資は増、物価はデフレ脱却に向かっていると具体的なデータ抜きで成果をアピールした。
この好循環(企業収益増→賃金上昇→個人消費拡大→企業収益増)が本格的な軌道に乗れば、約1000兆円の借金を抱える財政も健全化すると見込む。好循環の具体的な目標は、GDP実質成長率の2%達成。つまり、生産性の向上である。バブル崩壊後、10年間の平均成長率が0・9%の成熟経済には幻想的な数字だが、骨太方針には国民の成長への期待の高まりこそが重要なのだ。
経済再生への鍵を握るのがイノベーション(新しい価値の創造)とコーポレートガバナンス(稼ぐ力)の向上。イノベーションには法人実効税率の20%台への引き下げ、TPP早期妥結、外国人労働力の活用など国家戦略特区を突破口とする大胆な規制・制度改革を挙げる。
制度・システム改革の目玉が「人口急減・超高齢化」の克服。とりわけ女性の活躍をあげ、労働・結婚・出産・子育てのできる環境を整備し、50年後に1 億人程度の人口を想定する。女性は「働きながら子を産み、育てる機械」なのだ。
教育再生策はグローバル人材育成の一方、「伝統文化の理解」「必要な公共心の養成」を強調。また、若者の活躍に多様な再チャレンジの機会を確立すると安倍色が濃厚。原発は再稼働、外交は「地球儀を俯瞰する外交」とし、ODAの戦略的活用をうたった。また、東京五輪までに「世界一安全な日本」にするとし、サイバーテロ、組織犯罪対策など「監視社会」の完成を予告した。
日本再興戦略
日本再興戦略の改訂版は骨太方針に比べて明確にデフレマインドという宿痾(ヒト・モノ・カネの構造的な澱み)を三本の矢で一掃することを提唱した。
挑戦課題は、生産性向上による企業の「稼ぐ力(収益力)」の強化。目標はGDP成長率(実質)の2%達成。そのために世界でトップレベルの雇用状況、農業の所得倍増、医療・介護を成長源とすることを課題とした。
非正規低賃金の女性や外国人労働力の活用、所得倍増を餌にした農業の株式会社化、少子高齢化社会の成長産業として医療・介護を投資のターゲットとする方策などは骨太方針にダブる。新味はアベノミクスを地域に拡張する「ローカル・アベノミクス」を謳い文句にしたことだ。
日本再生は企業の「稼ぐ力」にかかる。株価上昇・配当増へ、約130兆円の公的年金積立金の運用を見直す。法人税減税を「成長志向型に変え、この名目でグローバルなヒト・モノ・カネを呼び込めるように「世界トップクラスの事業環境」を整備する。
労働市場は従来の「雇用維持型」から「労働移動支援型」に切り替える。賃金制度を労働時間で支払ってきたこれまでの在り方を成果で評価するものへと大転換する。TPPの餌食となる農業も、農業委員会・農業生産法人・農協の制度的見直しが明示された。
進化し、これからが正念場の成長戦略。政労使会議はその要に位置づけられている。同会議を軸に、2020年の東京五輪を目標に、法人税減税、女性の活躍へ待機児童解消、労使紛争の金銭解決、混合診療拡大などの施策を提示した。
「取り戻すのは日本の稼ぐ力」。それにはまず企業が変わる、国を変える―。これがアベノミクスの日本再興戦略の第一ステージだ。
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