通常国会開会から17日が経った2月12日に行われた安倍首相の施政方針演説は、「テロと闘う国際社会において、日本として責任を、・厳然として果たしてまいります」に始まり、「日本は変えられる」として憲法改定の国民的議論を呼びかけて終わった。野党は「看板の掛け替え」などと突き放したが、甘い。安倍政権は「日本を取り戻す―この道」を「戦後以来の大改革」と自賛し、あらためて今国会を「改革断行国会」と位置付けた。演説では改革すべき政策項目を折り込み、国民各層の歓心を引き寄せながらも参院選後の憲法改定へ誘う戦略が読み取れる。
企業のため心を一つに
安倍首相の政治理念といえば「戦後レジームからの脱却」。この2年間は「日本を取り戻す」と呼びかけ、今回の演説で「日本は変えられる」と国民に再認を求めた。
演説の基調は、@「日本を取り戻す―この道」は昨年の総選挙で国民の意思となった、A「この道」は「戦後以来の大改革」、Bこの「大改革」を進めれば、国民の間に芽生えた「日本は変えられる」という「自信」が憲法改定への「確信」に変わる、というもの。安倍首相のこうしたイデオロギー過剰の施政方針の色づけに岩倉具視、岡倉天心、吉田松陰先生、吉田茂元総理の片言隻句を引用した。キーワードは「心を一つに」「変化こそ永遠」「知行は一つ」「自信を持て」。
言わんとするところは借りた権威の我田引水。「世界で一番企業が活躍しやすい国」にするために、心を一つにし、改革に努め、自信を持って行動しようというのである。
この2年間、安倍政権は経済再生、大震災復興、社会保障改革、教育再生、地方創生、女性の活躍、外交・安全保障の立て直しに取り組んできた。演説はこうした取組みを、新憲法制定を含む戦後改革以来の「大改革」と意気込んだ。ということは、自らを占領下の絶対権力者マッカーサー連合国軍総司令官に見立てたに等しい。
国民いじめはひた隠し
それに比して「大改革」の内実が貧弱だ。その筆頭が農政改革。強い農業、競争力のある農業、目指すは世界の食市場など変わり映えのしない政策の中でも首相が改革の実績として挙げたのが60年ぶりの農協改革だ。
TPP交渉の早期妥結が目指すところは、「オープンな世界を見据えた改革」。首相はここで誰のための「大改革」かを明かしている。「経済のグローバル化は一層進み、国際競争に打ち勝つことができなければ、企業は生き残ることはできない。政府もまたしかり」と。
この企業に奉仕する政府の立場から法人税実効税率の2・5%引き下げを公約した。
医療改革の目玉は混合診療の拡大。エネルギー市場改革では原発再稼働はもとより、原発依存度の低減は長期的な政策とするベストミックスを明言した。
経済再生も改革の一環。この2年間に「三本の矢」は確実に成果を上げたとして、労働政策面の「成果」に多くを割いた。賃上げ=「官製春闘」は2017年まで続け、同時にその年の4月には消費税10%への増税を実施すると述べた。
社会保障改革では医療、介護、年金、生活保護等の制度改悪には一切触れていない。
女性労働力の活用を促進する「女性が輝く社会」、高齢者の就労チャンスの拡大、時間ではなく成果で評価する新たな労働時間制度(残業代ゼロ)、若者の使い捨てが疑われる企業(ブラック企業)の規制、子どもたちのための教育再生は「誰にでもチャンスに満ちあふれた日本」への改革として取り上げた。
子どもための教育再生の中にはフリースクール支援、幼児教育の無償化、高校生の奨学給付金拡大、大学奨学金の無利子化など前向きな方針が掲げられたが、道徳の教科化など教育の国家統制強化には触れていない。
地方創生改革について、「地方にこそチャンスがある」「地方こそ成長の主役」と言葉が躍る。地方分権として「地方創生特区」を取り上げ、「安心なまちづくり」としてコンパクトシティに言及し、自衛隊の災害活動に殊更な感謝を寄せた。
「日本は変えられる」 憲法改定に自信
この後半国会で焦点となる外交・安全保障の立て直し(改革)。演説は「国民の命と幸せな暮らしを断固として守り抜く」ために、「あらゆる事態に切れ目のない対応を可能にする安全保障法制の整備を進めてまいります」と持論を繰り返した。
懸念される戦後70年の新談話には直接言及せず、「『積極的平和主義』の旗を一層高く掲げ、日本が世界から信頼される国となる」として、次の100年に向けて「強い意志を世界に発信していく」と述べた。また、「地球儀を俯瞰する外交」の基軸は日米同盟であるとし、普天間基地の辺野古移設(新基地建設)を進める意志をあらためて表明した。
東北大震災復興も「大改革」の重要な課題として2020年までの復興を宣言。この年は東京オリンピックの年。演説はこの年を「私たち日本人」が「日本を変える」共通の目標の年と位置付けた。
各紙は、「安倍カラーを抑制」と論評したが、中身は丸出しの演説である。
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