沖縄県名護市の辺野古新基地建設に向けた大浦湾埋め立て工事を巡り、翁長雄志知事の作業停止指示に対して作業を「粛々と」進める政府・防衛省の意を汲んだ林芳正農相は3月30日、行政不服審査法に基づき県の指示を無効とする沖縄防衛局が申し立てた裁決までの執行停止を決定した。新基地建設に反対するオール沖縄の意思を背景に翁長知事は裁判も念頭に入れており、局面は沖縄現地の闘いを軸に、米軍と一体で戦争参加に走る安倍政権とどちらが世論の多数を獲得するかの国民的な闘争になった。
翁長知事は3月23日、辺野古沿岸部のボーリング調査を再開した沖縄防衛局が岩礁破砕許可区域外でサンゴ礁を破壊した蓋然(がいぜん)性が高いとして、3月30日までに海底面を変更する全ての作業を停止するよう指示。だが政府は、「作業を停止すべき理由はない」(菅官房長官)と反発、沖縄防衛局は翌24日に指示の無効を求める審査請求と暫定的な執行停止を林農相に申し立てた。
翁長知事の指示は情理を尽くした上の判断だった。2月27日、ボーリング調査再開により海底に投入したコンクリートブロックがサンゴ礁を破壊した可能性が高いとして、日米合同調査委員会合意に基づき米軍や工事用船以外の航行を禁じる臨時制限区域内の立入り調査を申請。破壊の状況が大きければ許可を取消す手筈を整えていたが、米軍は工事船のほか海保や沖縄防衛局の船が往来する中、県の調査だけは「運用上の理由」をもって拒否した。
3月21日、作業再開に抗議する集会が辺野古を望む瀬高の浜で行われた。「命の母なる海」「宝の海」を守ろうと参加した3900人を前に、安慶田光男副知事は「翁長知事は一片たりともぶれていない、知事は近々のうちに必ずや最大の決意をし、決断をする」と予告した。翁長知事の腹は決まっていた。23日の政治決断は県民の期待に応え、県民と覚悟を一つにした。
このオール沖縄の覚悟に対し、菅官房長官は「わが国は法治国家で、この期に及んでこういう文書が出ること自体、甚だ遺憾」と述べ、作業を「粛々と進めていく」と通告。さらに「翁長氏の指示は違法性が重大かつ明白で無効と判断した」と敵愾心を露わにした。
辺野古新基地は海外で戦争する米軍の出撃基地。すでに自衛隊の共同運用が明らかになり、米軍との一体化と自衛隊の軍隊化が新基地に秘められたソフトウエアだ。新基地こそ法治国家の根幹を揺るがす計画であり、違法性は政府にある。
しかも、林農相への審査請求の根拠法、行政不服審査法は「国民の権利と利益を救済すること」が目的。沖縄県民の権利と利益を踏みにじる政府の違法性はここに極まった。
思い起こしてみよう。少女暴行事件に端を発した普天間基地撤去問題は泥縄式に辺野古移設にすり替えられ、さらに新基地建設に化けた。少なくとも県外移設を訴えた鳩山民主党政権は幾度も県に足を運び調整した。その法治国家としての良心を阻んだのは米国と自民党、外務・防衛官僚に加えて仲井真前知事その人だった。
安倍政権は、何度となく上京した翁長知事に会おうともせず、県へ調整に出向くこともしない。日米合意に反対する沖縄県民への威嚇とパージ、憎しみと偏見は自衛隊の軍隊化、本土の沖縄化となって全国民を見舞うだろう。沖縄の闘いにとことん連帯しよう。
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