集団的自衛権の行使を可能にする戦争参加法案の国会審議にブレーキがかかった。6月4日の衆院憲法審査会(50人)で、参考人の長谷部恭男・早稲田大学教授、小林節・慶応大学名誉教授、笹田栄司・早稲田大学教授が揃って法案は「憲法違反」と発言した。この日のテーマは「立憲主義のあり方」、野党議員の「安全保障関連法案は憲法違反ではないか」との質問に答えたもの。法案の理論的土台が崩れ、廃案を求める各地の大衆運動に大きな励みとなった。
3氏の発言の焦点は、集団的自衛権の行使の法的妥当性をめぐるものとなった。安倍政権は昨年7月1日の閣議決定で、集団的自衛権の行使を「憲法上許されない」とする「自衛権に関する政府見解」(1972年「3要件」)に換えて「新3要件」を決め、集団的自衛権の行使を可能とする閣議決定を行った。この決定に基づいて関連11法案が今国会に提出され、一括審議の2週目に憲法改定論議を進める「本丸」から横槍が入る形となった。
長谷部氏は、集団的自衛権の行使について「従来の政府見解の枠内では説明がつかないし、法的な安定性を大きく揺るがす」と述べた。続いて「(昨年7月の閣議決定は)どこまでの武力行使が新たに許容されるのかはっきりしない。…従来の政府見解の基本的な論理の枠内におさまっていない…他国への攻撃に対する武力行使は他衛であって、憲法が認めているというのは難しい」と批判した。
小林氏は、「(法案は)憲法9条に違反する。9条1項は自衛のための武力行使はできると留保されているが、2項で軍隊と交戦権が与えられていないから海外で軍事活動する法的資格はない。その意味でこれは露骨な戦争法案だ」と指摘した。
笹田氏は、「(法案は)従来の法制局と自民党政権のつくったものを、定義では踏み越えてしまった。…昨年の閣議決定(集団的自衛権行使容認)の概念がわからない。国民の理解が得られないのはやむを得ない」と疑問を呈した。
整合性なき政府見解
長谷部氏の発言に自民党内に「人選ミス」と非難する声が上がった。しかし、長谷部氏は杉田敦・法政大学教授と「朝日新聞」の連載「論考」で、「そもそも憲法9条は集団的自衛権の行使を認めていません。行使容認に基づく法整備も認められない。法制化されれば憲法9条は変えられたのも同然です。日本を、地球上どこでも武力行使できる国に替えるというなら、正々堂々と憲法改正するのが筋です」と語っている(5月24日付)。
これを知らない自民党幹部が、憲法「改正」論議を取り仕切っていることが明らかになった。
なお、小林氏は憲法改正論者だが、その著書で、主権者の国民大衆が権力者を縛る立憲主義を否定する自民党に改正させるわけにはいかないとし、安倍首相の96条改正を「邪道」と切り捨てる硬骨の学者だ。
その小林氏から「怖い物知らずのお坊ちゃん」と評された安倍首相。思い起こしてほしい。昨年7月の閣議決定をクリアーするために内閣法制局長官をすげ代え、その年2月の衆院予算委員会で「(政府の)最高責任者は私だ、選挙でシンバンを受けるのは内閣法制局長官ではない、私だ」とヒステリックに答弁した。そして、閣議決定を見据えて「日米同盟は全く次元の異なるものになる」と布石を打っていた。
憲法の専門家3氏の見解に、安保・外交の実際を仕切る政府は憲法に適合すると反論。菅官房長官は、「憲法解釈として法的安定性や論理的整合が確保されている。違憲との指摘は全く当たらない」とコメントした。
国民は政府より3人の学者を信じる。
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