安倍政権の言論抑圧体質が露出した―。自民党若手議員でつくる安倍応援団「文化芸術懇話会」(代表・木原稔青年局長)の会合が6月25日、講師に作家の百田尚樹氏を招いて行われ、反日・売国のマスコミを懲らしめるために「沖縄の2つの新聞はつぶさないといけない」とエスカレート。会合は沖縄「慰霊の日」の2日後、戦争法案を審議中の国会の95日間延長1日目のこと。戦争のできる国づくりと一体で言論統制を進める安倍政治の本領があぶりだされた。名指しされた沖縄の地元紙『沖縄タイムス』と『琉球新報』は共同の抗議声明を発表、安倍政権を批判・警戒する国民世論が一気に高まった。
問題の会合には衆参議員37人が出席して百田講師とこんな質疑が行われた。
O議員「マスコミを懲らしめるには広告収入をなくせばいい。われわれ政治家、まして安倍首相は言えないことだ。文化人、あるいは民間の方々がマスコミに広告料を支払うなんてとんでもないと経団連に働きかけてほしい」
N議員「沖縄の特殊なメディア構造をつくってしまったのは、戦後保守の堕落だった。沖縄タイムス、琉球新報の牙城の中で、沖縄世論を正しい方向に持っていくために、どのようなことをするのか。左翼勢力に乗っ取られている現状において何とか知恵をいただきたい」
百田「沖縄の2つの新聞はつぶさないといけない。沖縄県人がどう目を覚ますか。あってはいけないことだが、沖縄のどこかの島が中国に乗っ取られれば目を覚ますはず、どうしようもない」
憲法違反が明確な戦争法案や、あまりにも不条理な沖縄政策を批判するメディアを特殊、あるいは左翼と見做し、懲らしめの対象とする異様な思考を共有する議員らのトップに安倍首相その人がいる。
百田氏は06年に『永遠の0』で小説家デビュー、自民党が野党時代に安倍晋三議員と意気投合し、第二次安倍政権でお友達としてNHK経営委員に就任。
身分はそのままに、14年2月の都知事選では超タカ派の田母神俊雄元航空幕僚長の応援演説に立ち、他候補を「人間のクズ」呼ばわりし、「戦争に負け、連合国軍の司令部が徹底した自虐史観を植え付けた」などと東京裁判を非難、南京大虐殺はなかったと歴史修正論をまくしたてた。
確信犯の百田氏が今回の問題で「冗談のつもり」と言っても誰も真に受けないだろう。会合には安倍首相の側近、萩生田光一党総裁特別補佐と官邸で菅官房長官や世耕弘成官房副長官とメディア対策を取り仕切る加藤勝信官房副長官が出席している。安倍首相肝煎りの会合なのだ。
しかし、安倍首相は翌日の衆院特別委員会でこの問題を追及されると、「自民党は自由と民主主義を大切にする政党で、当然、報道の自由は民主主義の根幹」との建前答弁を繰り返すだけで、「お詫び」や「遺憾」の表明は拒絶した。
同日開催予定だった自民党リベラル派「過去に学び分厚い保守政治を目指す若手議員の会」の会合は党の圧力で中止に。「戦後レジームからの脱却」は、憲法体制内保守をも弾き飛ばしている。
問題は戦争法案、沖縄の新基地建設、さらに70年談話にも関わり、根は深い。
沖縄2紙が共同抗議声明
『沖縄タイムス』と『琉球新報』は6月26日、編集局長名で「百田氏発言をめぐる共同抗議声明」を発表した。
声明は、百田発言は言論弾圧の発想そのものであり、民主主義の根幹である表現と報道の自由を否定する暴論と批判。続いて、普天間基地に関する発言の訂正を求めた。
また、沖縄の新聞は「戦争に加担した新聞人の反省から出発した」とし、「戦争につながる報道は二度としないという考えが報道姿勢のベースにある」と強調。百田発言のように短絡的な発想は沖縄の2紙に限らず「いずれ全国のマスコミに向けられる恐れがある」と警告している。
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