「シタイヒャー(でかした)」。10月13日、翁長雄志沖縄県知事が新基地建設に向けた名護市辺野古沿岸の埋め立て承認を取り消すと、現地キャンプ・シュワブ前で抗議を続ける県民らの間に歓声が沸いた。「米軍普天間飛行場は県外移設。あらゆる手段を駆使して新基地を造らせない」との公約を貫く知事と県民は一心同体。対して、普天間飛行場の危険性除去を大義名分に辺野古移設を「しっかり進めていく」(安倍首相)という政府との全面対決の局面に入った。
この日、県は公有水面埋め立て承認取り消し通知書を沖縄防衛局に手渡した。これにより法的根拠を失った国は取り消しを「違法」とし、翌14日に「私人の立場」で所管する国交省に埋め立て取消し無効を求める不服審査請求を行った。同時に審査の結果(裁決)が出るまでの間の取り消しの執行停止を国交相に申し立てた。
国交省の採決は来年にずれ込み、執行停止判断は3月の前例から6日程度の間をおいて出るものと推測され、防衛省は19日からの移設作業を見込んだ。
不服審査請求は行政審査法に基づいて行われる。同法は「国や公共団体の処分等から国民の権利、利益の迅速な救済を図ること」が目的。その国の一行政機関である沖縄防衛局が、「私人」を称して審査請求を行うこと自体が違法だ。また、「辺野古が唯一」とする内閣同士の判断は「出来レース」というほかない。翁長知事は以上の趣旨のコメントを即日発表した。
仲井真前知事が沖縄防衛局の埋め立て申請を承認してから1年10カ月余、翁長知事が10万票差で仲井真知事を破って当選してから11カ月、仲井真知事の埋め立て承認手続きを検証する第三者委員会(6名)が「法的に瑕疵(かし)がある」との報告書を翁長知事に提出して3カ月。
仲井真承認を受け、沖縄防衛局は13年8月に海底ボーリング調査を開始。この間、翁長承認取り消しを含めて移設作業の「一時中断」は5回。いずれもアイデンティティーで一丸となったオール沖縄の抵抗の結果である。
政府と県の1カ月間の集中協議で「(政府に)沖縄県民に寄り添って県民の心を大切にしながらこの問題を解決していきたいという気持ちがなかった」(13日の翁長知事会見)ことが県民と国民の前に明らかになった。
翁長知事は埋め立て承認取り消しを9月14日に表明すると、スイスの国連人権理事会で基地の過重負担と沖縄の自己決定権がないがしろにされていること、日本政府は民意を一顧だにしないことなどを訴えた。日本外国特派員協会の会見でも同趣旨の発言を行った。
こうした翁長知事の言動を「普天間飛行場を固定化するもの」として知事の責任を問う政府。「まさしくそれが日本の政治の堕落だ」と翁長知事から批判される政府(沖縄防衛局)は、第三者委員会の「聴聞」を拒否。代って提出された陳述書等を検討した結果として「埋め立承認取り消しが相当」の判断になった。
沖縄防衛局の陳述書は、「(仲井真承認は)県に十分な資料を提出し、精査された上での承認で瑕疵はない」と主張。そして、国交相に提出した執行停止申立書では「着実な普天間飛行場の危険性除去が遅滞する」こと、「日米間の信頼関係への影響などの重大な損害を避けるため」を主な理由としている。
宜野湾市長選と参院選
この県民感情とかけ離れた認識こそ「移設工事を進めていくことは自然なこと」(菅官房長官)とする自民党安倍内閣の脆弱点。ここに「県と国の主張のどちらがしいか」(翁長知事)を問う新たな闘いが始まった。
国交省の不服審査請求の採決が「承認取消し無効」となれば、県は工事差し止めを求めて提訴する。政府の請求が「棄却」となれば、国が承認取消しを求めて提訴するだろう。
裁決が出る前に宜野湾市長選が1月7日告示、24日投開票で実施される。政府側に立つ佐喜真淳市長と翁長知事支持のシムラ恵一郎氏の事実上の一騎打ちになる。また、夏の参院選では沖縄・北方担当相の島尻安伊子参院議員に伊波洋一前宜野湾市長が対決する。「日本の民主主義といったものを国民全体が考えていただく」(翁長知事)機会。負けられない。
なお、13日に発表された「辺野古埋め立て承認取り消し理由書」は第三者委員会報告を踏まえ、「国土利用上適正合理的な要件」と「環境保全措置」を検証、「埋め立ての必要性を認めることはできない」と判断した。
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