親の介護のために勤めを辞めざるを得ない介護離職。ヘルパーの松本郁代さん(仮名)は、その原因は介護職の人手不足にあると断言する。役所がサービスを提供してきた「措置制度」の頃からのベテランで、この20年間に600件を超える訪問介護をこなしてきた。その体験から、ヘルパーら介護職員の離職は「賃金そのものより扱われ方に原因がある」とも言う。利用者からは掃除婦扱いをされ、理不尽なことがあっても売上第一の事業者は守ってはくれない。そうしたヘルパーの知られざる労働実態の一端に触れた。
増える要支援・介護
ヘルパーは居宅、施設ともに利用者の生活援助(調理、買い物、掃除)、身体介護(食事、排泄、入浴)、通院乗降介助が仕事。最も需要の多いサービスを提供している。
介護職員の有効求人倍率は2・67倍(14年11月)。全労働者1・23倍の2倍以上だ。介護保険制度発足5年後の0・97倍が嘘のよう。 今では離職者が引きも切らず、在職1年未満が4割を超える。もっとも、この傾向は05年度以降変わらず、介護業界の人手不足は慢性的といえる。
介護職員は13年度171万人。厚労省は、団塊の世代が75歳以上に達する25年には37万7000人が不足すると試算。背景に介護サービス受給者の増加があり、直近の15年3月の要支援・要介護認定者は606万人と前年より22万人増えた。
また、14年度のサービス受給者は588万人(在宅サービス322万人)。需要の多い特別養護老人ホームの利用者は54万人、待機者52万人。要支援・要介護高齢者は2025年には826万人に増加すると予測される。
なのに、介護職員の成り手が減り、離職者が後を絶たないのはなぜか。かつて3K (きつい、汚い、給料が安い)が業界の定評だったが、若者の間では「休暇が取りにくい」「結婚ができない」を加えて5Kになった。
たとえば、ヘルパーの賃金は点数制で時給は最低賃金の水準。施設介護職員(平均勤続5・7年)で平均月額21万9000円。だが、登録ヘルパーの松本さんは、介護職員の離職が絶えない背景として処遇問題を指摘する。
「居宅サービスでミスをすると大変。皿を割るとスミマセンでは済まされない。弁償は会社がするが、連絡して、謝罪して、始末書を書かされて、もうそれだけで嫌になる」
利用者のわがままも身に降りかかる。1時間の仕事を終えて次のところへ移動しなくてはならないのに、帰り際にあれこれと言いつける人。ちなみに、移動時間は点数にはならない。
大雪の日にバスで通常の倍近い時間をかけて行くと、本人は来なくてもいいのにと言うが、会社は行けと言う。もし行かなければ、役所に注意されるのが恐いからだ。
こんなことも。炎暑の夏、利用者は自分の部屋だけクーラーをかけ、調理する台所は暑く、熱中症になりかけた。会社に何とかしてほしいと言っても取り合わない。また、大晦日の買い物で、2リットルのペットボトル6本ともち米を頼まれて手の筋を痛めた。限られた時間内の買い物だ。
ヘルパーには許されていない医療行為を求められることもある。むろん、命に関わるので断った。相手が認知症のときは時間があってないようなもの。神経をすり減らしうつ病になった仲間もいる。
それでも、「事業所はヘルパーを守ってくれない。一所懸命やっても使い捨て」。
失望して辞めていく
この4月、事業所に支払われる介護報酬が全体で4・48%のマイナスになった。その中で介護職員の処遇を改善するための加算拡充分として1・65%を充て、差し引きマイナス2・27%に。
ある社員が、ヘルパー募集のチラシを地域に2000枚まいた。反応は1人。介護職員養成講座に来る生徒は少ない。
「制度が始まる私の頃は、教室は満員。会社が受講料を出して待遇も良かった。今みたいな締め付けはなかった。今の事業者は使ってやるという感じ。それでも私たち登録には嫌なら断る選択肢があるけれど、常勤はこき使われて新しい人ほど失望して辞めていく」(つづく)
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