介護保険制度が発足するとお金を稼げる産業として“介護産業ブーム”が起きた。10兆円とも言われる巨大市場にコムスンやワタミなど株式会社や医療法人、NPO法人が競って参入した。ケアマネージャーの井上修一さん(仮名)は、「介護産業の多くがブラック。良心的にやっているところは大変な矛盾を抱えている」と実情を話した。ある医療法人が母体の施設は利用者の9割が生活保護の受給者で、報酬が多い訪問診療をどしどし入れ、トータルで儲ける貧困ビジネスまがいの事業所もあるという。
ケアマネも報酬少ない
介護支援専門員(ケアマネージャー)は高齢者に介護関連の情報提供、サービスの調整、介護費用の計算、関係機関との調整、ケアプランの作成が仕事。利用者と事業者の間でストレスを抱えるヘルパーの悩みを聞き、間に入って解決する責任を持つ。井上さんは、「良心的なケアマネなら何らかの対策を立てるはずだ」と言う。
ケアマネは有資格者の3分の2が介護職に就いていないペーパー資格。原因は「報酬が少ないからだ」とベテランの浜田孝夫さん(仮名)は即答した。
利用者1人を担当して1万円、30人担当して30万円。報酬が少ないのでデイサービスなどの事業所に机を置いてパラサイトする。
そうした立場から過剰なサービスをケアプランに入れて点数を多く事業所に出す。例えば、点数の高い身体介護をやっていないのにやっているように。ケアマネが営業マンに堕すと、コムスンのように不正の温床になると浜田さんは自戒する。
労働者の人権尊重
井上さんも「介護制度の設計の段階でケアマネの支援事業所を独立事業所にすべきだった。国はなるべく多くのケアマネ事業所をつくり、多くの利用者に対応できることを名分としたために、業界にワタミとか多くの営利企業が参入した。そこにケアマネを利用する形ができてしまった原因がある」と振り返る。
介護保険制度の歴史はたかだか15年。「家族介護が保険制度に代った背景には経済の第2次産業化、人口の大都市集中と核家族化、子どもたちの巣立ちとともに独り暮らしの高齢者の増加、老老介護の現実などの社会問題がある。そうした社会の構造変化も見ないでただ介護離職ゼロと言っても、矢は地に落ちるだけ」。
浜田さんはこともなげに「1億総活躍社会」を批判した。
介護労働者の待遇や人権が保障されていない環境をそのままにして、利用者が満足のいくサービスを受けて老後を幸せに暮らせるはずがない。
つづく制度の改悪
介護保険は5年毎に制度改正と3年毎に認定・運用の見直しが行われてきた。だが、保険料の引き上げ、費用の自己負担増、報酬の引き下げ、給付適正化という名の軽度者へのサービス削減、施設や福祉用具の利用制限など改悪つづきだ。
一例として、40歳以上に支払い義務が発生する保険料。65歳以上の1号被保険料は、制度発足時の00年度は平均月額2911円、それが15年3月には5514円と倍近くに引き上げられた。その一方、国は介護切りといわれる利用制限を政策の基本においてきた。
浜田さんは、06年に創設された予防ケア中心の「地域包括支援センター」に触れて制度の今後を危ぶむ。
「国は要介護度の高い人も自宅に戻す在宅介護中心にシフトした。これからは掃除や洗濯など生活援助は保険から外し、三大介護といわれる排泄、食事、入浴の身体介護に特定する。ヘルパーは身体介護に従事させ、生活援助は外国人労働者やボランティアに委ねる。ケアマネも儲かる予防へ流れるだろう」
青天井の国債発行と財政規律優先、社会保障費の削減を大命題に介護費用の削減を図る中での介護離職ゼロ。そのいい加減さに怒りはつのる。(おわり)
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