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変革の軸は労働運動 今が反転攻勢のとき
松枝佳宏(新社会党中央執行委員長)×藤田孝典さん(NPO法人ほっとプラス代表理事)


「格差社会」が言われて久しいが、富と貧困の蓄積の進行は、大多数の人々に生きずらい社会・生きられない社会となっている。そうした日本社会を著書『貧困世代』などで告発し、自らNPO法人で困窮者の支援を行う若者世代の藤田孝典さんと新社会党の松枝佳宏委員長が対談した。


松枝佳宏(新社会党中央執行委員長) 
 松枝 著書の『下流老人』と『貧困世代』を読んで、他人事ではないと感じました。今後、医療・年金・介護など生活に直結するこれらの問題はどうなるのかと痛切に感じました。
 若い人に頑張れと言いますが、私も含めて、高齢者層が闘ってきた結果であり、その責任の一端は私たちにもあると思いました。

 藤田 私はNPOで年間500件の生活支援、困窮している人の支援をしています。大学で貧困研究をしてきて、なぜ人が貧困になるのかと考えてきました。私たちのNPO法人の活動を通じて、大衆・市民の普通のくらしが難しくなっていることを分析し、その説明のため、『下流老人』『貧困世代』を出版しました。
藤田孝典(NPO法人ほっとプラス代表理事) 
 資本主義は行きつくところまで来ています。現場では、社会保障が切り詰められている問題を、政治家に働きかけてきました。
 本来なら、労働運動や社会運動で解決すべき問題が、高齢化や組織率の低下もあり、意図的に弱くさせられてきました。しかも、現場の労働者や市民に寄り添うようなNPOは多くありませんでした。NPOや労働組合が若者世代を引き付けていかなければならないのですが、現実はそうではありません。
 連合傘下の組合は、正社員クラブになっています。ワーキングプアといわれる20代〜30代は結婚、出産、マイホームなど、できようがありません。労働組合はどこにスポットライトを当てて政策に反映するのでしょうか。
 700万人近い労組加盟の組合員がいるところに、私たちも一緒にテコ入れしてやっていくことが大事だと考えています。スタンスは同じで批判だけでなく、動きながら現場の声を聞き、動かない労組等に油をさす人が増えてくれば、歯車は回り出します。
 親がやり繰りしてようやく入学した大学では、奨学金問題が深刻です。社会人になっても奨学金を返済できません。今の雇用情勢では不安定就労で奨学金を返済できなく、多額の借金を抱え、その数は33万人です。この問題では、連合や全労連、全労協でも取り組んでいます。本来なら給付型の奨学金を導入するべきです。
 賛否両論がありますが、参議院選挙の前に、苦しいところや高齢者にお金を配布することをしましたが、これも必要なことです。肝心なのは、政策的に動いていく手ごたえだし、明確に同じ方向に向き合って共闘していくことです。
 世界では保守党対労働党、民主党対共和党など、大きく二項対立が根付いています。これを踏まえた社会保障問題や、労働運動に取り組んでいくことが大事だと思います。

 松枝
 社会変革でも労働運動が中心であり、牽引してゆくのは労働者の運動だと思いますが、ここをどうするかを考えているのですが。

 藤田 私はひとりで入れるユニオンでも活動、支援をしています。最低賃金を引き上げようと、労働条件に関心が高まっています。
 松枝さんの言うように労働運動が機軸だと思うし、ここが問われていると思います。今が反転攻勢のときです。ユニオンへの加盟は増えていますし、芽が出始めた状況です。30歳代以下の人たちが、労組の役割に関心を持っています。私が企業や大学で話す機会が増えてきています。
 そのためにも、皆さんには長生きしていただいて、労働問題や社会問題をひっぱっていってほしいのです。
 90年以降は、労働組合でストライキの経験もなく、団体交渉で賃金が上がって、暮らしがよくなるという実感を経験する機会は減っています。組合運動、労働運動の衰退で労働組合の役割に気がついていないのです。

 松枝
 安倍首相のやり方は、長寿社会になる高齢者も若者もターゲットにし、つぶそうとしています。高齢者が元気を出さないと、若者についてこいとは言えませんね。

 藤田 日本の階級・階層社会のなかで、アベノミクスは世帯年収800万円以上の人に対する政策です。庶民にはトリクルダウンに幻想と期待を持たせています。まさに、小泉構造改革から民主党政権の失敗まで、期待できない政策が続いています。
 他方では労働組合に若者の社会保障を求める運動が少ないです。足もとからメディアを活用し、労働者が声を出さない限り変わりません。

 松枝 藤田さんの著作で若者の福祉を書いた意味は大きいと思います。このままでは、非正規の人は生きていけませんね。
 
 藤田 高度経済成長後も、企業に福利厚生を任せてきました。正社員と終身雇用制が暗黙の了解でした。しかし、90年代以降は働いても暮らしは成り立たず、マイホームが買えない。一方、企業は2010年以降、一段と福利厚生や社会保障をしなくなりました。
 未婚、少子化対策を企業がやるのか、社会保障がやるのかが問いかけられてきました。
 10歳代〜30歳代の層では、ブラック企業に就職しています。東大を出て、広告会社の電通1年目の女性が過労自殺しています。そのほか立教、一橋、早稲田などの大学出身の人が、名だたる企業で体を壊して、家族にも頼れない状態です。今は即戦力でないと使い捨てにされます。
 労働組合は労使協調路線となり、過労死やうつが増えても労働者の資質や努力不足と考えられ、自浄能力も弱いです。だから10歳代〜30歳代の相談者は労働組合不信が根強く、相談しても解決しないと思わされています。
 しかし、外部にユニオンが作られ、労働者を見捨てないというユニオン組織ができてきて、大きく労使の関係性が変わっていきます。これでようやく労働組合とは何かと気づき始めます。

 松枝 物作りが海外に出て、残るのはサービス産業です。これまで、公的な社会保障や教育などが市場化されています。
 1970年代、自治労は看護師の労働条件を確立するために公務員労働者自身の運動をつくっていました。ユニオンも最低賃金を要求し、保母さんのユニオンができてもよいと思います。

 藤田 この間、公務員バッシングで、社会全体が公務員を減らす傾向で市民生活が縮小されています。公務員が減ると税金が安くなるというのは嘘です。
 全ての人が利用する交通・電気・通信などは市場に任せるのではなく、本来は国の責任でやるべきです。公を放棄した結果、みな利用料の高騰などに苦しんでいます。
 現在の運動は、市民に対する働きかけ、情報発信が弱いのです。生活や制度を作っていくこと、自分たちの利害を調整してくれる人が出てきてもよいはずです。 安倍首相は「日本を取り戻す」と言いました。それならば、私たちも「日本を取り戻す」と規制緩和以前の日本に戻し、国が税金で負担する合意形成をして、社会保障の充実や公共で使うものは、無料で使えるようにするべきです。
 
 松枝 ヨーロッパでは、左翼が規制緩和反対と言い始めています。規制緩和、新自由主義の正体が露わだからです。

 藤田 ヨーロッパでは規制緩和、新自由主義に対しては、その声がまともな左翼に引き継がれています。その要求は緊縮財政に反対し、社会保障に財源を出したほうが経済成長すると言っています。
 しかし日本は未だ市場経済に任せ、金融緩和など経済成長一本やりです。個人消費の割合も6割を占めます。その大多数が中間層以下ですから、そこに必要な分をまわすことなど、若者を助ける政策が必要です。
 ベーシック・インカムは私は反対で、現物サービスが良いと思っています。金の配布よりも、皆が使える現物で、安い住宅や空き家の活用のほうが合理的です。
 人々が何に困っているのかを調査して、そのための予算を組む、そのために必要な税率を示して合意をつくるなど、当たり前の政治にすることです。しかし今は声の大きい人は減税、声が小さい人は増税されています。
 ミクロ(相談者・生活者)・メゾレベル(地域事情)・マクロ(社会政策)の3つを連動して考える政策を打ち出すことです。生活者視点で、ユニバーサルかつ普遍的な社会保障に変えてゆく必要があります。
 例えば兵庫県明石市では、子どもの貧困対策をやめて子ども全体を見た政策を実行し、人口も増え、好循環になっています。
 住宅・医療・介護・大学は無償か低負担とする合意形成をし、国民が税金を払うようにすることです。
 高齢者の介護保険でも金持ちは2割負担で、頑張った人たちがなぜ多く支払うのか、生活保護受給者はずるいとなる。この分断対策をやめ、市民福祉・生活福祉全般を助けることです。
 労働組合で言うと、非正規の人たちの支援、弱者救済では組合員も支持しませんし、既存の活動からも離れます。正社員全体も助かる社会保障政策の合意形成が必要です。

 松枝 96年新社会党を結成し、綱領と中期政策(国民連合政府)を作りました。情勢が大きく変わり問題意識を持って見直そうと今、討議しています。

 藤田 新社会党の綱領の方向性は間違っていないと思います。今の状況は、アメリカのサンダース旋風に見られるように、通りやすい土壌ができています。若者に運動を引継ぎ、後継者を育成していくことです。
 フェイスブックやツイッター、スマホなど身近な意見が反映されるSNSを駆使した情報戦が重要です。左派は情報戦で不戦敗が続いています。
 私は皆さんの活動の歴史を知っているからこそ、若者やユニオンに広げるために、闘う背中を見せてほしいのです。
 神奈川でもストライキがあり、交通ストップはインパクトがありました。今では30歳代、40歳代はストライキも団交の経験もありません。現場に足を運ばなければ、マクロの政策提言だけでは説得力がなく、現場の人にこそミクロ・メゾレベル・マクロの連動性を大事にして働きかけてほしいのです。 

 松枝 一部の組合活動家は、連合が看板だけの春闘なら秋闘を始めようと提起しました。最賃と公務員の確定闘争、社会保障問題などを含めて、地区労やユニオンなどにも働きかける新しい運動が生まれ始めています。 

 藤田 40歳代以下の後継者づくりのために尽力してほしいです。団塊の世代があと5年、10年で引退してなくなる運動ではないようにしてほしい。生涯活動です。本気でやってもらいたいのです。 

 松枝 うまい方法はないが実践・実験し議論する中で道を創っていきたいと思います。 



ふじた・たかのり 1982年、茨城県生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事。ルーテル学院大学大学院総合人間学研究科社会福祉学専攻・博士前期課程修了。社会福祉士。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。生活保護問題対策全国会議幹事。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員(13年度)。聖学院大学客員准教授。著書『下流老人』『ひとりも殺させない』『貧困世代』共著『ブラック企業のない社会へ』など。




 
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