2018.12.11
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歴史問題の解決に求められる
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加害者の慎みと節度 |
韓国大法院の『徴用工判決』に思う
韓国の最高裁である大法院は11月29日、元徴用工の遺族や元女子勤労挺身隊の韓国女性らが損害賠償を求めた2つの裁判で三菱重工業の上告を棄却した。10月末の新日鉄住金への判決に次ぐ徴用工らの勝訴であり、元徴用工訴訟は地裁や高裁で10件以上が係争中で、日本企業敗訴の流れは確定的だ。また、11月21日には韓国政府が「和解・癒し財団」の解散を表明した。大法院の判決に河野太郎外相は「断じて受け入れない」などとする談話を出し、「対抗措置」にまで言及している。こうした日本政府や社会の反応などについて、戦後補償問題に取り組んでいる内田雅敏弁護士に寄稿して頂いた。
戦時中、日本製鉄(現新日鉄住金)で強制労働させられた元徴用工が同社に損害賠償を求めた裁判で、韓国大法院は同社に賠償を命じる確定判決を出した。判決に対する日本社会の反応はおおむね批判的だ。1965年の日韓請求権協定で決着済みであり、判決は国家間の合意に反するとの声がしきりである。
だが、国家の請求権と個人の請求権は別、放棄されたのは外交保護権であり、日韓請求権協定は個人の請求権には及ばないとする法論理もあるし、それが原爆訴訟以降の日本政府の見解であったはずだ。
1991年8月27日、衆院予算委員会で柳井俊二外務省条約局長(当時)は、日韓請求権協定の「両国間の請求権の問題は完全かつ最終的に解決した」の解釈について「その意味する処でございますが、日韓両国間に於いて存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて、解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したと云うことでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権行使として取り上げることが出来ない。こういう意味でございます。」と述べた。
「国家間の合意」には無条件で従わなくてはならないのか。沖縄・辺野古の米軍新基地建設反対も、日米間でなされた普天間基地移設に関する国家間の合意に反する。辺野古新基地建設反対運動に多くの人々が共感するのは、普天間基地移設と辺野古新基地建設という「国家間の合意」が沖縄県民の意思を無視してなされたからだ。
韓国大法院の判決についても同様だ。日本の植民地下での強制労働の実態およびそれに対する謝罪と補償の欠如-日韓請求権協定当時の椎名悦三郎外務大臣は、協定による無償の3億㌦は賠償ではなく「独立祝い金」だと国会で答弁した?を直視すれば、「国家間の合意」による解決済み論とはまた別な論も導き出される。
歴史問題の解決のためには被害者の寛容が必要だが、そのためには加害者の慎みと節度が不可欠だ。
1998年10月8日、小渕恵三首相と金大中大統領は日韓共同宣言を発した。
「小渕総理大臣は、今世紀の日韓両国関係を回顧し、我が国が過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ、これに対し、痛切な反省と心からのお詫びを述べた。」
本件徴用工問題もこの精神に沿って、解決されるべきだ。
(うちだ・まさとし=東京弁護士会所属、日弁連人権擁護委員、憲法委員会幹事など歴任。『和解は可能か』など著書多数) |
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