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新自由主義の弊害を除く政策 |
全ての人のために ~日本と対極のソウル~ |
白石孝さん提供
約1万人の正規職化、小中学生の給食無料化、8万戸の公営住宅建設、申請主義から職員が出向く福祉への転換、市民事業の立上げ―パク・ウォンスン市長の進める韓国ソウル市政は、日本とは対極にある。
労働尊重都市掲げ
パク市長は11年秋、当時の市長が給食無料化に所得制限を設けようとして住民投票で辞職に追い込まれた選挙で初当選した。
その三大公約は、学校給食の無料化継続、ソウル市立大の授業料半減、市関連の非正規労働者の正規職化。ソウルや韓国全土を覆っていた貧困への対策を打ち出して当選、即座に実行されていった。
本来労働行政は政府の専管事項で、市に権限はなかった。しかし、労働尊重都市を掲げるソウル市は、地域最大の経済主体として良質な雇用を創出する良い事業主となる責務を持つとして自治体初の労働行政を開始した。
その考えをパク市長は16年の年頭挨拶で「すべての成長の目標は人を対象とすべき」「すべての成長の結果は人の幸せであるべき」と語っている。その眼差しは脆弱労働者(低賃金や女性、高齢者、労働組合がなく保護が受けられない労働者)に向けられている。
その結果、市やソウル地下鉄など市関連事業で働く有期労働者を公務職として無期雇用にし、賃上げも進めた。さらに市関連の労働者には最低賃金を30%近く上回る「生活賃金」を制度化している。
生活賃金は、市の事業を請け負う企業が入札時にカバーすると加点、民間でも採用するよう働きかけている。また就職活動中の青年がアルバイトに追われないよう、月5万円の「青年手当」を創設した。これら施策の根底には、労働者を「労働者市民」として捉える考え方がある。
「出かける福祉」
公営住宅建設は住宅難に苦しむ韓国では大きな福祉政策で、学校給食無料化に所得制限を設けないことに象徴されるように、普遍的福祉を推進している。
そして市内各所にある、日本では支所や出張所にあたる「洞(とん)」に社会福祉職員を配置、申請ではなく、住民らの情報も生かして生活困窮家庭を訪問して立ち直りを支援している。「出かける福祉」と称されるものだ。
現在3期目のパク市長は軍事独裁政権に対する民主化運動や、弁護士、社会政策団体の結成、国会議員の落選運動などの経験を生かし、新自由主義の弊害を取り除く政策を体系化し、スピード感をもって実践している。学ぶべき課題は多い。
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