泉南石綿(アスベスト)訴訟は、厚労相が最高裁判決を受けて原告に謝罪・和解する意向を表明して全面解決の方向となった。だが、石綿被害は広く深い。これからの発生も想定される。最高裁判決はノンアスベスト社会の端緒に過ぎない。
塩崎恭久厚労相は10月21日夜記者会見を開き、泉南石綿訴訟の最高裁判決で審理を大阪高裁に差し戻された原告28人に和解を申し入れ、勝訴が確定した54人と合わせ合計82人に謝罪する方針を表明した。最高裁判決に該当する被害者については、提訴を待って和解する意向も明らかにした。
当然の判断とは言え、判決で国の不作為が断罪されて12日目、石綿による肺がんや中皮腫などで明日をも知れぬ重篤な病に苦しむ原告とその家族にとって決断に時間がかかり過ぎるという思いがあるのではないか。
速やかに実行すべきだが、謝罪・和解し、賠償すればそれで済むということではない。医療体制の整備など今後の対応が問われている。
救済はほんの一部
だが、最高裁判決で救済される石綿被害者は、1958年から71年の13年間に排気や防塵マスク着用など対策が十分でなかった石綿工場で働いた労働者に限られ、被害者のほんの一部に過ぎない。
71年以降の石綿被害者、石綿工場周辺で曝露した住民、石綿労働者の家族の曝露被害、建設労働者の石綿被害、阪神・淡路大震災の際のガレキ処理作業で石綿被害にあった労働者が労災認定を受けている、かつて石綿は車のブレーキにも使われていた、そして泉南の石綿紡織は100年に及んでいるなど、わが国の石綿被害は広く深く甚大なのである。
さらに、全国の建物には数百万トンもの石綿が残存し、その解体工事が数年後にはピークを迎えるという。対策いかんでは、解体作業による飛散で被害を受ける人が出る可能性も懸念される。
立命館大学法科大学院の吉村良一教授(環境法)が、「これ(最高裁判決と国の和解・謝罪)を機に、国に法的責任がないことを前提にしている現在の石綿救済法を抜本的に改正する議論が必要」(毎日新聞10月22日付)と提起しているのは、こうした石綿被害の広さ、深さ、深刻さによるものだ。
70年も前から知悉
極めて細い鉱物繊維の石綿は耐火性や保温性などに優れ、建材や輸送機器など広範な分野で大量に使われてきた。吸い込むと呼吸困難の石綿肺や中皮腫、肺がんにかかり、その発症まで数十年という例もある。95年に危険性の高い石綿の使用が禁止され、2004年に販売・使用の原則禁止、12年に全面禁止された。
国は70年以上も前から石綿被害の深刻な実態を知悉しながら、経済的有効性を優先して規制や対策を怠った。命より経済を優先し、国民の命をないがしろにした責任の全てをとる義務がある。
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