原発の再稼働は認めないという全国初の仮処分決定が福井地裁で出された。再稼働を秋に予定して準備を進める関西電力にとっては当然の痛手だ。原発の全国的再稼働と輸出を推進しようという安倍首相に対しても反撃の契機となる。
高浜原発稼働を禁じた仮処分の理由は次の通り明快だ。
なぜ差し止めか
電力会社は過去の統計から起こりうる最大の揺れの強さを基準地震動として想定し、それに耐えうるものにすればいいとしてきた。しかし基準地震動は全国の実績からみても、理論的にみても、信頼性を失っている。しかも根本的な耐震補強工事がなされることがないまま、設計時は370ガルだったものから、安全余裕があるとの理由で550ガル、さらに新規制基準の実施を機に700ガルまで引き上げられた。耐震安全性確保の基礎となるべき基準地振動の数値だけを引き上げるという対応は許容できることではない。
多重防護によって安全性を確保する設計となっているというが、原子炉自体の耐震性に疑念があれば、守りはいきなり背水の陣となる。基準地振動を超える地震が高浜原発には到来しないというのは根拠に乏しい楽観的な見通しに過ぎない上に、700ガル未満の地震によっても冷却機能喪失による炉心損傷に至る危険がある。
これは万が一の危険だという領域をはるかに超える、現実的で切迫した危険である。加えて、使用済み核燃料プールは我が国の存続に関わるほどの被害を及ぼす可能性があるのに、格納容器のような堅固な施設に閉じ込められていない。新規制基準自体が緩やか過ぎ、合理性を欠き、これに適合しても安全性は確保されない、と的確だ。
生活権か利潤か
昨年5月大飯原発3、4号機の差し止めを認めた福井地裁は、生命を守り生活を維持するという人格権を何物にも替えがたい貴重な権利とする憲法に忠実な見方を今回も貫いた。
国民の生命や人格権よりも目先の利潤を上に置く原子力マフィアは納得しない。西の大親分・関電は福井地裁に異議申し立てをした。安倍晋三政治部長は、「原子力規制委員会により安全性が確認された原発は再稼働を進める」とする。
マフィアの忠実な子分である田中俊一規制委員長は「基準の適合性は見るが、安全だということは申し上げない」と何度も述べたが、親分の苦境に「新規制基準を見直す必要性は感じない。判決は我々の審査や決定には影響がない」と開き直った。誰も責任はとらないから気楽である。マフィアを支えてきた最高裁にも期待はできない。
しかし、国民の生命を守ることを、巨大資本の利潤よりも上位に置いた樋口英明裁判長の勇気ある仮処分決定は、全国の仲間の闘いを励まし、大きな反撃のうねりを生む契機となるべきものである。
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