公害の原点である水俣病の公式確認から来年で60年。水俣病と認定されても患者が障害から救済されることはないが、症状があるのに認定もされない10万、20万もの人々がいる。行政と司法の患者切り捨ては、「新通知」で続いている。
公害健康被害補償法に基づく水俣病認定基準の「新通知」差止めを求める佐藤英樹さん(水俣市在住)の控訴審で、東京高裁は訴えを棄却した。判決は、通知は行政機関の「内部行為」で国民に権利義務を生じさせる「処分」には当たらないなどとした昨年8月の東京地裁判決を全面的に認定、同様に門前払いした。
環境省は昨年3月7日、熊本県などに水俣病の新たな認定指針を通知し、手足の感覚障害など単一症状の場合、水銀摂取などを裏付ける「客観的資料」の確認を求めた。これに対し、佐藤さんは「水俣病認定を狭く限定するのが目的で、科学的、医学的根拠がない」と主張、環境省に対して新通知の取り下げ、熊本県には新通知に基づく認定審査をしないよう請求している。
行政訴訟の要件
判決は新通知の経過や内容に触れず、「処分性」の一言で切り捨てた。控訴審で原告・弁護団は、処分性について国民の権利義務に直接関わらなくても行政の全体的な手続きとして国民の権利の有無を判断し、権利の範囲に影響するような行政行為は行政訴訟の要件を備えていると主張したが、裁判官は無視した。
最高裁は13年4月、溝口・Fさん訴訟で水俣病の概念は一つであり、行政が恣意的に水俣病の概念を狭めることはできないと認定行政の違法性を明らかにした。60年を超える水俣病の歴史に画期的な判決であり、政府は認定行政の誤りを認め、改めなければならなかった。
ところが、環境省は直後に「最高裁判決は77年判断基準を否定していない」とする次官声明を出し、水俣病違法行政の存続を固持するため矢継ぎ早に対策をとった。その一つが昨年3月7日発出した「新通知」だ。
ビッグチャンス
佐藤さんは、司法の義務を追及しなければならないとして上告した。寺田逸郎最高裁長官は溝口・Fさん訴訟判決を下した第三小法廷の裁判長であり、原告代理人の山口紀洋弁護士は、「寺田長官の今はビッグチャンス。地裁、高裁は水俣病の患者を放置する判決を出している。こんなことが許されるのかと最高裁に問う」と意欲を燃やす。
山口弁護士は、門前払い判決を朗読した高裁の柴田寛之裁判長に「このような判決で水俣病患者は保護されない。60年間の違法行政による水俣病事件が解決すると思うか」と問うた。裁判長は「裁判は終わった」とか細い声で2回述べた。
「裁判官の裁判は終わったかも知れないが、原告・佐藤英樹の被害は終わっていない。水俣病は終わっていない」(山口弁護士)のである。
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