弁護士が有罪率99・9%という刑事裁判の壁を打ち破る証拠を見つけなかったら、ずさんな捜査によって2人の中国人男性は有罪にされていた。誤認逮捕・起訴、そして100日近い不当拘留で侵害された人権は回復されることはない。
濡れ衣を着せられた2人は14年1月22日、東京都八王子市内で男性2人に暴行し、けがをさせたとして今年3月、警視庁八王子署に逮捕された。2人は容疑を否認したが、4月に傷害罪で起訴。6月からの公判で検察側は目撃証言などから、暴行したのは2人と氏名不詳の計3人、タクシーで逃走したと主張した。
目撃証言だけで
弁護側は、「犯人」が乗ったタクシーのドライブレコーダーは残っていないかとタクシー会社と交渉し、2年以上前の事件当日の映像を探し当てた。写っていたのは、明らかに2人とは違う3人の男。冤罪を証明する決定的な証拠だった。
2人は無実、アリバイも主張した。犯行時間に居酒屋から別の店に移って飲食していた。弁護士は、2人の事件当日の説明が合理的で、「絶対にうそをついてない」と捜査に強い疑念を持った。
そして、裁判前手続きで「客観的な証拠は、いざ開示を受けたら、なかった」というのだ。犯人ではないから客観証拠がないのだ。弁護側の指摘まで、捜査側はドライブレコーダーの映像を確認してもいなかった。ずさんと言うほかない。
検察側の主張を裏付けるものは、目撃証言だけ。被害者や目撃者が複数の写真から犯人を指し示す「面割り」という捜査から、現場近くの居酒屋にいた2人が浮上したという。捜査側は、写真で容疑者を特定する「面割り」に頼り、間違いを犯した。客観的証拠がないのに起訴した検察の安易さには驚かされる。
弁護側に動かぬ証拠を突きつけられた東京地検立川支部は7月21日、「捜査の結果、2人が犯人ではない」として公訴を取り消した。同地検の落合義和次席検事は誤認起訴を認め、「身柄を拘束したことを大変申し訳なく思っている。心よりおわび申し上げる」と謝罪した。
公訴を取り消す
落合次席検事は「ドライブレコーダーの確認は捜査の『イロハのイ』。捜査が不十分だったのは間違いない」とも述べた。映像の存在が明らかになって地裁立川支部が被告1人の保釈を認めた際、検察が抗告したため保釈が遅れた点についても、「結果的に正しかったとは言えない」と謝罪した。犯人でないことを理由に公訴が取り消される事態は異例で、それほどまでにお粗末な捜査だった。
検察は、自白偏重や誤った捜査で数々の冤罪事件を犯してきた。過去の失敗から数々の教訓を汲み取ったはずだが、体質は変わっていない。証拠を十分に収集することは当然で、それらに冷静で多角的な評価を加える慎重さが必要だ。
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