「刑事司法改革法案 今国会で成立濃厚」、4月初旬の新聞社会面の見出しである。継続審議になっていたが、参院法務委で同月14日に審議が再開された。冤罪の温床になりかねないニセ可視化や盗聴法の大改悪、密告を奨励する司法取引の導入を許してはならない。
冤罪を防ぐはずが
昨年の通常国会に提出された「刑訴法等の一部を改正する法律案」はそもそも、元厚労省局長の村木厚子さんを冤罪に陥れようとした郵政不正事件や布川事件など相次ぐ冤罪や捜査機関による証拠偽造などを防ぐために取調べの可視化(録音・録画など)導入など司法の抜本的見直しを図る筈(はず)のものだった。
ところが、検察・法務省、警察は取調べ可視化を導入すれば捜査に支障をきたし、日本の治安は悪化しかねないなどと反対し、わずかな可視化と引き換えに盗聴法の大改悪や司法取引などの導入を主張し、それが盗聴法・刑訴法等改悪案として法案化され、一括法案として国会に提出された。昨年の通常国会では衆院法務委で68時間の審議で、わずかな修正の上、自公や民主(当時)の賛成多数で衆院を通過した。
参議院では、民主党がヘイトスピーチを禁止する議員立法(人種差別撤廃施策推進法案)を先に審議することを要求して与党と折り合いがつかないまま継続審議となっていた。
女児殺害事件判決
そうしたなか、取調べの一部可視化が恐ろしい結果を招きかねない「事件」が起きた。栃木女児殺害事件の裁判員裁判による無期懲役の判決(宇都宮地裁)である。判決は3月31日に予定されていたが、4月8日に延期され、自白調書の信用性を認め、勝又拓哉被告に無期懲役を言い渡した。
判決文には「客観的事実のみからは被告人の犯人性を認定することはできない」と明確に述べた上で、「自白は実際に体験しなければ語れない具体性に富んでいる」と自白供述の信用性を認定している。弁護側が「強要された自白」と主張する中、5通の自白調書は裁判官のみの合議によって「任意性あり」として証拠採用されたものである。
判決は、「自白を重視し、客観的証拠が軽視された判決である。被告が犯人と直結する証拠がない中で、有罪と結論付けており、冤罪の可能性を払拭できない」と指摘される。公判では80時間に及ぶ取調べの録音・録画のうち約7時間、それも編集されたものを再生したが、被告が女児殺害を供述した場面が中心だった。判決後の記者会見で裁判員たちは、「録音録画がなければ判断できなかった」と述べ、録音録画再生で心証をとったことを明らかにした。冤罪の疑いは拭えない。
わずかな「可視化」で刑事法制の大改悪、捜査機関の焼け太りと言われるゆえんだ。盗聴法の大改悪を含む一連の法案の真の狙いは戦争ができる国への布石である。今国会で成立させなければ、参院選挙があるから廃案になる。
|