内閣府の特別機関の一つで日本の科学者の内外に対する代表機関である「日本学術会議」が、戦争協力への反省から戦後堅持してきた軍事目的の研究を否定する原則の見直しに向け検討を始めた。科学者は再び戦争協力の道を歩むのか。
日本学術会議は1950年の総会で「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない」とする声明を決議。その後、日本物理学会の国際会議が米軍から補助金を受けたことが問題となり、67年の総会でも改めて「軍事目的のための科学研究を行わない」との声明を出している。
安倍政権によって
しかし、戦争する国作りを進める安倍政権は13年に閣議決定した国家安全保障戦略と防衛大綱で、大学や研究機関と連携して「防衛にも役立つ民生技術(デュアルユース)の積極的な活用」を打ち出した。14年には「武器輸出三原則」を撤廃、軍需産業をアベノミクスの中核に位置付ける「防衛装備移転三原則」を閣議決定。日本経団連は戦争法強行採決直前の昨年9月15日、「防衛産業政策の実行に向けた提言」で「大学との連携強化」を打ち出した。
防衛省は、防衛装備品に応用できる最先端研究に資金を配分する「安全保障技術研究推進制度」を昨年度から始め、大学などへの研究費助成を目的に3億円、今年度は6億円を計上している。
こうした中、日本学術会議(大西隆会長)は5月20日「安全保障と学術に関する検討委員会」を設置、@50年と67年の声明以降の条件変化A軍事的利用と民生的利用、デュアルユース問題の違いB安全保障に関わる研究が学術の公開性や透明性に及ぼす影響C安全保障に関わる研究資金の導入が及ぼす影響D研究が適切かを判断するのは科学者個人か大学や研究機関か、の5項目を海外の動向も参考に検討し、年内に見解をまとめる。
この背景には、大学など研究機関への予算削減政策で研究者が軍事研究に手を染めざるを得ない実態もある。国立大学は04年の独立行政法人化以降、交付金が1500億円近く減り、私立大を含め研究費の獲得は死活問題になっている。
「研究できるなら」
大西会長が学長を務める豊橋技術大の加藤亮助教は「ナノファイバーを利用した有毒ガス吸着シート」開発が昨年度、「防毒マスクの軽量化につながる」と防衛省の資金援助制度に採用され、475万円獲得した。加藤助教は「この制度でなくても研究ができるなら応募しなかった」(5月23日付『毎日新聞』)と複雑な心境を吐露している。
日本学術会議の動きに危機感をもつ研究者らは「軍学共同反対アピール署名の会」を立ち上げ、医学関係者らの「戦争と医の倫理の検証の会」は6月8日に記者会見を開くなど、科学の戦前回帰を許さない運動が始まっている。科学者の良心を戦争の暗雲が覆う時代になった。
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