自民党税制調査会は12月半ばの取りまとめに向けて18年度税制改正大綱の議論を進めている。安倍晋三首相が「3%の賃上げを」と企業に呼びかけたことを受け、法人税の減税措置で後押しするとしているが、本末転倒だ。
自民税調の本末転倒
自民党税調は衆院選圧勝を受け、所得税等の改革に踏み込むという。柱は「控除方式」の見直し、とくに年金受給者の控除のあり方や賃上げした企業の優遇税、投資減税などといわれるが、財源調達能力を喪失した危機的状況を全く認識できていない議論だ。
働く高齢者が増える一方、高額報酬を得ながら年金を受け取る高齢者も増えており、給与に係る控除と年金に係る控除の「二重取り」が問題というが、「公平・公正な所得税」を担保する「総合課税」への問題意識がない。
また、生産性を高めるため投資減税も検討されるというが、これも「租税特別措置」の存在が法人税を歪めているとの批判に逆行する。賃上げを実施した企業に対する法人税減税も検討課題とするというが、先進資本主義国で日本だけの賃金下落を誘導し、国民経済を失速させてきたことへの反省・総括がない。
国民経済破壊の元凶
2つの事実を指摘しておく。1989年の消費税導入から2017年までの足掛け29 年間で、消費税収入は349兆円。他方の法人税の減収額は281兆円。消費税収入の大半が法人税減収の穴埋めにされた事実。
次は、「失われた10年」、あるいは「20年」という言葉があるが、給与所得がピークだった1997年を基点にすると2015年までの18年間、単年度の賃金差は平均15兆円、総計262兆円に上る賃下げの事実である(民間給与基礎調査2015年版)。
その結果、報道されているように大企業は過去最高益を更新し、内部留保は400兆円を突破した。大企業は、企業減税で281兆円を補てんされたにもかかわらず、賃金や設備投資をほとんど増やさず、逆に労働者から賃金を262兆も掠め取っているという事実である。
応能負担原則に戻せ
この間、新自由主義的税制改革の一環として世界的に租税フラット化が進んだが、日本ではこの誤った流れが急速に展開された。
例えば、所得税(国税)の最高税率についていえば、1962年の75%から84年70 %、87年60%、89年50 %、99年37%へと引き下げられ、半分以下に下げられた。法人税も84年は43・3%だったが順次引き下げられ99年には30%になっている。
この減税の補てんが消費税の導入であったが、デフレが深刻化しただけでなく、憲法が要請する応能負担原則に反する税制改悪によって、日本の税制は財源調達能力を喪失した。消費税導入前の税制度に戻すこと、これが租税国家の再構築の道である。