米国が抜けた「TPP11」(包括的および先進的環太平洋パートナーシップ協定)承認案が5月18日の衆院本会議で与党などの賛成多数で可決、参議院に送られた。審議はわずか6時間。承認案は衆院議決後30日たてば自然成立する。
多国籍企業にあらゆる投資と貿易の自由化を保証するTPP協定は、国論を二分する重大問題だ。実施されれば、日本の環境や医療、食の安全や農業などが破壊され国民生活が壊されるからである。
食糧安保を無視
例えば、司法制度を否定する「ISDS条項」や健康保険制度を破壊する「混合医療の拡大」、食の安全安心を奪う「成長ホルモンの使用容認、BSE検査や農薬使用、遺伝子組み換え食品表示などの緩和」、日本農業に壊滅的打撃を与える農産物、とりわけ重要5品目(米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源)の自由化促進、水道事業の民営化に伴う危険性の拡大、特許期間で発展途上国と米が激しく対立した知的財産権等がそれである。
さらにTPP11を巡っては、@総枠7万トンの乳製品輸入枠を拡大A米国(7万トン)と豪(8400トン)に与えた主食用コメの無関税輸入枠や加工用コメ6万トンの輸入を拡大B種子法廃止C牛肉・豚肉のマルキン制度(経営安定策)の法制化Dセーフガード(緊急輸入制限措置)の発動基準の欠陥E農業・農協改革という名の農協つぶしFTPP11農業影響調査額(1500億円)の過小評価G38%まで下がった食料自給率、などについて農家・農業団体が「世界の食と環境情勢を無視し、食糧安全保障を忘れた愚行」と厳しく批判する。
しかし政府・与党は、「先のTPP国会(16年)で論議は尽くされている」と野党の質問にまともに答えず、自然成立を図るため数の力で採決を強行した。
日米2国間協定
TPP11は、TPP協定の米国関係がらみの22項目を凍結し、米のTPP復帰の可否が確定すれば再協議する条件付きだ。安倍首相は米をTPPに復帰させ、2国間交渉を避けたい一心でTPP11承認を強行している。しかし、トランプ米大統領は貿易不均衡是正へ2国間協定を望んでいる。
トランプ氏らの「アメリカに有利な条件でなければTPPに復帰しない」「自動車の関税を20%(現在2・5%)にする」「米国への鉄鋼輸出に関税をかける。日本は例外扱いしない」といった発信は、6月から始まる「日米貿易通商協議」を2国間協議にもっていく米側の意思の表れに他ならない。
「TPP11」は、短期的には農家に大きな打撃を与え、長期的には日本の農業、環境、医療・健康、地域経済など国民生活を破壊する。安全安心の社会をつくるために、日米の多国籍大企業の利益を優先するTPP11・総自由化路線を許さない世論を高めなければならない。