元徴用工に対する韓国最高裁の判決に政府や自民党だけでなく、国民各層が「判決の不当性」を声高に論じている。朝鮮半島の人々の尊厳を再び傷つける言動も少なくない。徴用工がどんな処遇を受けたのか、現代に通じる課題でもある。
韓国最高裁の判決は、元徴用工の損害賠償請求権は、「不法な植民地支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為に対する被害者の日本企業に対する慰謝料請求権」とし、請求権は、1965年に締結された「日韓請求権協定」の対象外で、韓国政府の「外交保護権と元徴用工個人の損害賠償請求権」のいずれも消滅していないとする。
判決に対し、安倍晋三首相は、「(請求権問題は)65年協定により完全かつ最終的に解決」とし、「国際法に照らしてあり得ない判断であり、毅然として対応していく」と主張する。
それだけでなく、首相は徴用被害者を「朝鮮半島出身者労働問題」と言い換え、植民地支配下における強制徴用を事実上否定し、合法的に行われたとする。河野太郎外相にいたっては「判決は国際社会への挑戦」「暴挙」と批判する。日本政府の見解は、請求権協定と国際法に関する正確な理解を欠き、捻じ曲げている。
過去の政府答弁
判決は、「慰謝料請求権は協定の対象に含まれない」としており、日本政府も「協定により放棄されたのは外交保護権であり、個人賠償権は消滅していない」(柳井俊二・外務省条約局長答弁、91・92年当時)としていた。
07年中国人被害者に対して日本の最高裁は裁判上(訴求権)の権利は喪失したが、被害者個人の請求権は「実態的」に消滅していないとした。この解釈は当該企業が任意かつ自発的に賠償金を支払うことは法的に可能であり、請求権喪失は法的障害にならないということである。
そこで新日鉄住金や西松建設、三菱マテリアル事件など、日本企業が事実と責任を認めて謝罪し、その証として基金を設立し、被害者を救済してきた。請求権が完全に消滅したのであれば、それら企業の支出は株主からの損害賠償の対象となる。
ILOの「勧告」
判決文によれば「原告は募集広告に応じ、それには二年間の訓練で技術を取得できる」と書いてあったが、実際は賃金が支払われず、過酷で危険な労働を強いられ、提供される食事もわずかで、外出も許されず、逃亡を企てたとして体罰を加えられる等、極めて劣悪な環境に置かれていた」と言っている。これは「強制労働」「奴隷労働」であり国際法違反の人権侵害に当る。
ILOも09年、日本政府に対し、「年老いた強制労働者が訴えている請求に応える措置をとることを望む」と勧告している。歴史を消すことはできない。日本政府は自らの責任を自覚し、真の解決に向けた取組みをすべきである。