世界が注目したハノイでの2回目の米朝首脳会談は、「合意文書」に署名するに至らなかった。それなりの期待を寄せていた韓国をはじめ各国は失望したが、安倍晋三首相だけは「トランプ大統領の決断を全面的に支持」した。
今号1面記事のように合意できなかった唯一の原因である「制裁解除」の中身が大きく食い違うという、不可解な結末であった。
また笑いものに
トランプ大統領が「席を立った」理由が、「制裁全面解除」と「寧辺核施設廃棄」を天秤にかけたのなら、「ディール」として通用するのかもしれない。しかし、金正恩委員長が求めたのは国連制裁決議の「民間経済と人民生活」に限るとすれば、不調の責任はトランプ氏の側にある。
例によってトランプ報告だけで先走って、「決断を全面的に支持」したのなら、また世界の笑いものになるだろう。
政治を「ディール」としてではなく、真面目に検討しようとすれば、元々米国の要求には無理がある。完全廃棄を求める朝鮮の保有核弾頭数は米国の数百分の一でしかない。この間、核実験中止や核施設爆破などそれなりに譲歩してきたのに、米国は半島周辺での軍事演習を縮小しただけだ。
米国の圧倒的なミサイルは、朝鮮に照準を合わせたまま。「経済制裁を解除しない限り『北』は草の根を食べても核開発を続けるだろう」というプーチン露大統領の指摘に耳を貸さない。しかも、今は事実上の交戦状態にあるインドとパキスタン両国とも核保有国であり、世界中が危惧している。この核保有を黙認するのも米国だ。
安倍政権は朝鮮の核施設破壊を求めているのに、インドに原発を売り込もうとし、東アジア最大となる辺野古新基地建設にまい進している。こうしたダブルスタンダードを解消していくことが、米朝会談を結実させ朝鮮半島の平和を実現する近道だ。
忖度だけの報道
メディアは相変わらず、「トランプ氏が安易な妥協をしなかった」と評価、「韓国の文在寅大統領の思惑は外れた」など揶揄するトーンに塗り込められている。そこには東アジアの平和への願いも、朝鮮の植民地支配と南北分断をもたらした日本の責任感は微塵もない。政権を忖度しているだけだ。
これに対し、文在寅大統領は立派だ。会談直後のトランプ氏との25 分間の電話会談で「地球上最後に残った朝鮮半島の冷戦」終息のための「決断を期待する」と直言した。トランプ氏も文氏に「金委員長と積極的な仲裁役を果たしてほしい」と求めた。
同じころ行われた安倍・トランプ電話会談は10分。格の違いだ。3・1独立運動記念式典で文大統領は、会談の実現自体は評価し、南北統一に向けた「新韓半島体制」を提唱した。この姿勢こそ「第3回米朝会談」成功への道だ。