政府・防衛省は今月中旬、エジプト・シナイ半島の「多国籍軍・監視団(MFO)」の司令部要員として自衛官2人を派遣する。「国際連携平和安全活動」で初、国連の平和維持活動(PKO)に続く海外派兵で、戦争法制の実績作りだ。
国連主導ではない
「中東の平和と安定に積極的に寄与する」( 岩屋毅防衛相)として自衛官を派遣するMFOは、国連が統括する平和維持活動ではない。
イスラエルは1967年の第三次中東戦争で占領したシナイ半島を、79年のエジプトとの平和条約で大部分を返還。MFOは同条約に基づいて82年から米軍などが国境地帯の停戦監視などを任務として展開している。
「多国軍・籍監視団」が結成されたのは、国連による監視を嫌うイスラエルの希望で、米、英、仏、伊、豪など12カ国1200人が派遣されている。日本政府は88年から財政支援を行っている。
渡りに船の「要請」
MFOへの陸自・自衛官の派遣は、安倍政権が15年に強行(16年施行)した安全保障関連法=戦争法制の一環として改定PKO法で定められた「国際連携平和安全活動」の初の適用事例となるものだ。将来的に米軍主導の多国籍軍に自衛隊が参加する突破口・実績作りであり、歯止めのない派兵につながりかねない。
改定PKO法で認められた「駆けつけ警護」や宿営地の共同防護は、南スーダンPKOで新任務として付与されており、MFOへの自衛官派遣によって海外での自衛隊の活動範囲はさらに広がることになる。
自衛隊の海外派兵は、2017年5月に南スーダンPKOから陸自部隊が撤収し、現在は09年から続くソマリア沖アデン湾での海賊対処活動と、南スーダンPKOでの司令部要員となっている。
内閣府国際平和協力本部によると、自衛官派遣はMFOからの要請で、シナイ半島南部のシャルムエルシェイクでMFOとエジプト、イスラエル両国の連絡調整を担うという。「積極的平和主義」を掲げる安倍政権としては、派遣「要請」は渡りに船と言える。
国会承認は不要!?
派遣には、紛争当事者間の停戦合意などを規定する「PKO参加5原則」が準用される。 5原則は、@紛争当事者間の停戦合意A当事者が日本の参加に同意B部隊は中立を厳守C1〜3のいずれかが満たされない場合は撤収D必要最小限の武器使用。
国際連携平和活動には、新要件としてE国際機関や国の要請が加わっている。国会の関与については、部隊等の派遣は国会の事前承認が基本だが、政府は司令部要員の派遣に国会承認は不要とする解釈に立っている。
MFOへの自衛官派遣は昨年秋に浮上し、政府は今年に入って園浦健太郎首相補佐官(安全保障担当)、鈴木貴子防衛政務官を派遣、現地の治安情勢などを調査していた。