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  4. 2019.05.21
『戦争法』札幌地裁判決
司法を放棄 政権に追随
 裁判所がその役割を放棄し、自らの存在を否定した判決は枚挙に暇がないが、札幌地裁でまた繰り返された。それも、「戦争法制」違憲訴訟に対する全国初の判決で行われたのだ。門前払いの判決には怒りを通り越し、悲しみすら覚える。

 集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法(戦争法)は平和的生存権を保障する憲法に違反するとして、北海道内の現職自衛官の家族や市民、憲法学者らが起こした集団訴訟の判決が4月22日、札幌地裁であった。

「原告敗訴」の予断

 岡山忠広裁判長は、「平和的生存権は法律上保護された具体的な権利とは言えない」と請求を全面的に退け、自衛隊の海外派兵差止め請求については、「訴えは不適法」と却下。憲法判断は、へ理屈を並べ立てて回避した。

 安保法違憲の集団訴訟は全国22地裁で25件起こされている。戦争法違憲訴訟の判決は初めてだが、司法の自殺とも言うべき判決に強い怒りを禁じえない。

 判決について原告・弁護団は同日、「日本が戦争に巻き込まれる可能性があることを直視しない、極めて不当な判決」とし、札幌地裁が本人尋問や証人尋問を一切行わず、原告の具体的被害の主張すらさせないまま判決に及んだことについて、「原告敗訴という予断を抱いたものと言わざるを得ず、公正な裁判による判決とは到底言えない」などと厳しく批判する声明を発表した。

 声明はまた、「本判決のように安保関連法に裁判所が沈黙することは、基本的人権の保障を使命とする裁判所の責務の放棄」と指弾、「裁判所が憲法で保障された違憲立法審査権を積極的に行使することを強く求める」として控訴した。

 集団的自衛権の行使を容認した安保法制は、政権がどう言い繕おうとも明らかに憲法違反だ。歴代の政府は自衛隊の存在を個別的自衛権で合理化してきたが、集団的自衛権の行使はその枠を超え、憲法上、認められないとしてきた。

 政府が安保法制の裏付けとしている砂川事件に関する「最高裁判決」は、個別的自衛権の保有に言及しているのであり、集団的自衛権は全く問題になっていないことは常識だ。

問われる憲法認識
 判決は、「平和的生存権は法律上保護された具体的な権利とは言えない」としているが、自衛隊イラク派遣訴訟で名古屋高裁は2008年、「平和的生存権は基本的人権の基礎で憲法上の法的な権利」と当たり前の認識を示した。札幌地裁判決は明らかな後退で、平和的生存権という憲法の基本原理に対する認識を疑わざるを得ない。

 現職自衛官の母親が訴える苦痛、苦しみについて判決は、「集団的自衛権の行使等として出動命令が出される蓋がい然ぜん性せいは低く、原告の抱く不安や恐怖は抽象的な不安の域を出ない」などとしていることについて、声明が「全く空疎」と切り捨てたのは当然だ。

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