安倍晋三首相の在職日数は、8月に佐藤栄作内閣(2789日)を抜き、11月20日に戦前の桂太郎内閣(2886日)をも抜いて歴代最長となる。最近はガタガタだが、悪行の限りを尽くしている政権の長命の秘密は、どこにあるのか。
ある評論家が安倍政権を「腐ったミカン箱」と的確に評した。側近閣僚2名の辞任、萩生田文科相の失言と受験産業との癒着による大混乱は普通なら総辞職ものだ。しかも、「戦後最悪の日韓関係」「北方領土問題解決の頓挫」など外交も惨たんたる有様だ。
なぜ倒せないか
戦争法強行や森友・加計疑惑など倒に追い込めたはずの局面は多々あった。ある講演会で、講師が安倍内閣の悪らつさを語ったところ、「そんなひどい政権をなぜ倒せないのか」とただされ、返答に詰まったという。
「チコちゃん」からの核心を突く質問は、ボーッとやりすごすわけにはいかない。とりあえず考えられる答えは二つ。
一つは、アベノミクスを野党が攻めあぐねてきたこと。1000兆円の借金を抱えながら安倍政権は金融緩和と財政出動をし、少なくとも不況を悪化させないように見せかけてきた。国民を巧妙に分断しながら「バラマキ」を行い、世界に珍しい「非緊縮」の財政・金融政策をとってきた。
野党はアベノミクスは大企業ばかり優遇し、民衆に金が回ってないことを追及すべきだったのに、「消費増税延期は無責任」とか、「財政再建の破たん」などと批判した。この弱腰のため選挙で自公を切り崩せなかった。
二つめは、従来の自民党にはない安倍流の手法だ。選挙での棄権の多さ、自民党の絶対得票率の落ち込みなど、民衆は決して安倍政権を積極的に支持しているわけではない。
権力の側も絶対多数を獲得しようなどとは思っていない。投票率は5割だからそのうちの25%を超える支持があればいい。そこで25%の中核の右翼的岩盤支持層を固めることに専念し、「維新」など補完勢力もうまく利用してきた。
野党の質に帰着
トランプ米大統領が、リベラルから嫌悪され批判されるほどに己の支持層を下品に固めるのと同じ右翼ポピュリズム傾向を安倍政権は強めている。経済界も眉をひそめる韓国に対する異常な対応はその象徴である。
同時にこういう姿勢は野党が強ければ安倍政権の弱点に転化しうるが、その逆なら改憲を突破口にファッショ的な権力支配を生む。
結局二つは関連していて、野党の質に帰着する。欧州では、右翼ポピュリズムに対抗する反緊縮左翼が活性化している。米国では、旧来のリベラル民主党ではない左派が民主党内で優勢になっている。
日本は立ち遅れているが、山本太郎氏の一石が、「なぜ悪らつな政権を倒せないのか」と野党に自己反省的に考えさせる効果を生んでいる。