今年はベルリンの壁が崩れてから30年。地球の3分の1の人口を占めた社会主義世界体制が後退し、「歴史の終焉」が声高に叫ばれた。しかし格差の壁、排外主義の壁が世界中にでき、新たな、しかし複雑な形態の階級対立が強まった。
「歴史の終焉」説とは、社会主義という「不自然なシステム」の失敗によって、資本主義・市場経済こそ人類の最終到達点であることを証明したという新自由主義の宣言だ。だが、3世紀も前の古典派経済学の観念で社会がうまく成り立つはずもなかった。
事実、「市場にすべてをゆだねた」30年の中間決算が生存と環境の危機下の混とんだ。ベルリンの壁の代わりに、格差の壁、排外主義の壁が世界中に生まれ、「先進」諸国の政治は旧来の対立関係とは異なった様相を一気に強めた。
ねじれる階級対立
米国の共和党と民主党の二大政党の対抗関係は、階級の対抗関係へと再編された。とは言え、かつてのような単純な階級対立ではない。IT化や国際競争力に敗退し不安にさらされる旧来の製造業の白人労働者の不満は、「壁建設」による排外主義と国益第一主義を掲げるトランプ共和党を生み、岩盤支持層となった。
他方、民主党の大統領候補予備選は左派系が優勢で、かつてのセレブの民主党主流は混迷を深めている。左派を支えるのは、集会でインターナショナルを歌う若者中心の社会民主主義勢力だ。
共同と逆の方向も
EUが共通通貨を制定し労働力移動も自由にしたことが、諸国の共同とは逆の国家主義をもたらした。格差の拡大に追い打ちをかけたのが難民流入だ。
秋にドイツで行われた3州の議会選で排外主義の極右政党AfDが軒並み急伸して第2党に、連立政権政党CDUとSPDは劇的に敗退した。AfDは労働者政党・左翼党の票も奪い取った。各国に「緊縮」財政を強いながらEUを主導し、経済的に最も安定したドイツですらこうだ。
イギリスでは、コービンの労働党が「反緊縮」を鮮明に掲げて右翼ポピュリストの跋扈は許していない。しかし、大量に流入した移民労働者への不安もEU離脱への過大な期待を生み、12日実施の総選挙で離脱への姿勢が不鮮明だった労働党は大敗した。
新自由主義的だった旧労働党から若者に支えられて脱皮したコービン労働党の行方が注目される。
巨額のバラマキで
さて、日本では移民・難民への排外主義拡大の条件はない。しかし、安倍政権自体が右翼ポピュリズムの様相を強め、「桜を見る会」など政権の末期症状を巨額のバラマキや嫌韓キャンペーンで乗り切ろうとしている。
生存と環境の危機に対抗する民衆の息吹が、試行錯誤しながらも若者や女性に希望と勇気を与えている世界にならい、私たちも2020年は前進しよう。