翁長雄志沖縄県知事は9月14日、仲井真弘多前知事が行った辺野古埋め立て承認を取り消す手続きに入ったことを表明した。問われるのは、政府・沖縄防衛局による埋め立て申請そのものの瑕疵(かし)である。
以前、辺野古テントを訪ねた際、「本土からの埋立土砂の搬出を阻止できれば、新基地は止められる」ということが強調されていたことを思い出す。それは、連帯する本土側が負うべき具体的課題だ。辺野古埋立土砂をめぐって、いま何が起きているのか。
辺野古埋立て計画の概要
あらためて埋立計画の概要を整理してみる。新基地面積205fの8割160fが埋立地となり、高さは地上10bに及ぶ。埋立必要土砂2100万立方bは、東京ドーム17個分に相当する。
図が示すように、約2割を沖縄県内から、約8割にあたる1644万立方bを、香川県小豆島、福岡県門司、山口県防府・周南、長崎県五島、熊本県天草、鹿児島県佐多岬・奄美大島・徳之島の採石場から調達する予定だ。10トンダンプにすると274万台分に相当する。
つまりは、埋立側と同等の環境破壊が採取側にも生じるのだ。それなのに、採取側の環境アセスはなぜ行われないのか。こんな仕組みだ。採取事業は各地に分散し規模が小さくなるためアセスを必要としない。さらに土砂は民間業者からの購入という形式をとり、沖縄防衛局の説明は「業者は法を遵守することを約束しているから問題ない」という無責任極まるものだ。
気候も地質も違う遠隔地からの土砂搬入は、それ自体が埋立地域の生態系を攪乱し破壊する危険が高い。山口県では侵略的外来種ワースト100選定種で特定外来生物に指定されているアルゼンチンアリの生息が確認されており、埋立土砂への混入が危惧される。
西日本の採取地は、いずれもが国定公園などに隣接する豊かな自然と景観を有する地域だ。いま西日本の採石場では、写真のように裸地が広がり、おびただしい岩ズリが野積みされている。豪雨による土砂崩れの危険、さらに赤土や土砂が海に流入することで海底がヘドロ化し、サンゴ破壊や漁業への影響も出ているという。
また、1300億円といわれる膨大な土砂採取・運搬費は、「二束三文の土砂が金になる」という辺野古バブルを生み、長年築いてきた地域の生業をも破壊しようとしている。
土砂搬出反対組織の結成
5月末には、「環瀬戸内海会議」「自然と文化を守る奄美会議」を中心に、採取地域の環境団体7組織が「辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会」(阿部悦子・大津幸夫仮共同代表)を設立、新基地建設と土砂搬出計画の撤回を求めて署名活動などに取り組んでいる。決議文は、次のように訴えている。
「離島、農漁村は高度成長下で資材供給を担わされ、破壊と公害に苦しんできた…ようやく乱開発に歯止めがかかり、地域の主体的な振興の取り組みが始まりつつある…新たな大量の土砂供出は、再びふるさとの荒廃を加速しかねない」
一方、沖縄県議会は7月、「公有水面埋立事業等における埋立用材に係る外来生物の侵入防止に関する条例」を可決、11月から施行される。これにより事業者には、特定外来生物を混入させないための調査や対策の実施、その内容を資材搬入90日前までに県知事に届けるなどの義務が生じる。
「あらゆる手段を尽くして辺野古に基地はつくらせない」とする翁長県政の決意を示すものでもあるが、条例の内容は、すでに国が「外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)」として規定しているものである。将来を見据え、豊かな自然を守り、地域の宝として維持していく、そのための自治体条例モデルとして、国や環境省は全面的に歓迎・支援すべきものといわねばならない。
戦後70年憲法実践の沖縄
仲井真前沖縄県知事による埋立承認を検証する第三者委員会の委員を務めた桜井国俊沖縄大学名誉教授は、「オール沖縄」の意思を次の3点で説明している。@二度と戦争をさせない、A豊かな自然を子や孫たちの世代に引き継ぎたい、B沖縄のことは自分たちで決める(自己決定権)。それは沖縄における憲法の実践といってもいいだろう。それが戦後70年の沖縄の到達点なのだ。
「安保法制」の強行成立を受け、私たちはどのような社会を構想し目指そうとするのか。本土の民衆運動に課せられた重さを考えたい。
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