米元海兵隊員による女性暴行殺人遺棄事件、続く6万5千人の祈りと怒りにつつまれた県民大会。その祈りと怒りは10万票を超える大差で現職大臣を落選させ、伊波洋一参議院議員を誕生させた。
沖縄の衆・参すべての選挙区を“オール沖縄”議員が占め、与党議員はいなくなった。この明確な沖縄の民意にかかわらず、政府は参院選直後に高江での工事強行に踏み切った。暴力の限りを尽くして反対住民の排除を行った同じ日、政府は沖縄県が辺野古埋立「是正指示」に従わないことを違法として、高裁に提訴している。
目眩がするほどのこれだけの経過が、わずか3カ月の出来事である。
「挫折」の共有と「打ちのめした」ものへの怒り
どんな言葉を書いても、その軽さに耐えられない気がする。しかし、沈黙はさらに許されない。それが、20歳の女性の生命が無残に奪われた報に接して、最初に思ったことだった。
人殺しのプロになるために、日夜の訓練がある海兵隊。そんな万余の米兵が、沖縄では市民生活をともにしている。何より、沖縄の声に耳を澄ませたい。そして、戦争につながるものすべてに反対する、それが人間の安全保障であることをあらためて刻印したい。
沖縄特集を組んだ『AERA』6月27日号のなかに、沖縄戦PTSDに取り組んできた蟻塚亮二さんの、事件に触れた次の言葉がある。 「(95年少女暴行事件からの)この21年間は沖縄の人たちのチャレンジングな姿勢を確認するプロセスであり、自己肯定の日々でもあったはずです。それがいきなり21年前に突き落とされた衝撃。これは大きな挫折というしかありません」「今回の体験は、沖縄の人々を強烈に打ちのめしたのではないでしょうか」。
6月19日県民大会は、6万5000人の参加者が、何よりもこの「挫折」の共有と「打ちのめした」ものへの怒りを確認する場であった。6万5000人の背後には、沖縄戦から今日にいたって続く基地ゆえの被害の実相が連綿と連なっている。 地位協定の抜本改定、基地の縮小・撤去を求めることは正しい。しかし、あらためてそう訴えなければならない苦悩を、「本土」の私たちはどれほど想像し理解できているだろうか。
参院選の伊波勝利は、この県民大会への結集で決まったように思う。全国の議席数では改憲勢力が3分の2を占める結果となったが、希望は3分の1を維持させた力にあることを考えたい。沖縄はもとより、原発・震災復興・TPPなど争点の明確だった福島、東北、新潟、北海道そして鹿児島知事選は勝利している。それは、共闘の力である。
「負けない」「屈しない」
その参院選直後から、高江で政府の工事強行が始まった。「北部訓練場の過半の返還により沖縄の負担は軽減」と喧伝する政府に対しては、米海兵隊「戦略展望2025」の次の記述を引用するだけで十分だろう。
「普天間代替施設建設が進行しているキャンプシュワブなど北部は目覚ましい変化を遂げる」と述べ、「最大で51%もの使用不可能な北部訓練場を日本政府に返還し、新たな訓練場の新設などで土地の最大限の活用が可能となる」と期待を示している。(「沖縄タイムス」7月25日付)
那覇からは車で4時間はかかる高江に、工事開始前日、21日の集会には1600人が集まった。250人はそのまま徹夜で抗議を続けた。座り込みテント周辺には、道いっぱいに165台の車によるバリケードが築かれ、警察車両の進入を阻止し続けた。それは、私にとって既視感のある光景だった。
2012年10月、私たちはオスプレイ配備に反対して、普天間基地の主要ゲートを座り込みと車のバリケードで封鎖した。今回の高江には、その10倍を超える車両が封鎖に参加したという。沖縄平和市民連絡会の北上田毅さんはブログにこう記している。
「月の光の中、道路いっぱいに広がる車列、そして機動隊に対峙する人々の姿は、まさに感動的な光景だった。徹夜から炎天下の午後まで続いた闘いにはさすがに疲れたが、それでもこの歴史的な闘いに参加できたことを心から嬉しく思う。高江住民は負けない。私たちは屈しない」。
連帯を紡ぎ出す
辺野古を、高江を、「本土」全体へ可視化させた力は、辺野古ゲート前をはじめ現地闘争を維持し、支えてきた沖縄民衆運動の力である。安保法制(集団的自衛権)
の具体化は、米軍と自衛隊の装備一体化と共同訓練の常態化から、米軍訓練の「本土」移転、さらには「本土」自衛隊基地の日米共同使用へとつながっていくだろう。それは「沖縄の負担軽減」を口実にもしながら進むはずだ。
それらをつなぎ、沖縄との連帯として紡ぎ出すことができるか、一層の乖離へと逢着させてしまうのか、問われているのは「本土」民衆運動である。
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